アオサギを議論するページ

ヒエログリフ

ベヌウという鳥のことが知りたくていろいろ調べているうちにヒエログリフにはまってしまいました。

ベヌウが何者なのかはとりあえず置いておいて、まずはヒエログリフ。ヒエログリフはご存知のとおりエジプトの象形文字です。その文字数は何百何千とあって、鳥を象ったものだけでもかなりの数があります。右の絵もそのひとつで、見てのとおりアオサギです。このアオサギは頭の後ろに特徴的な冠羽があるのでアオサギ以外の鳥と間違うことはないですね。胸の飾羽もさりげなく描かれていますし、これほどデフォルメしているのに全体のフォルムが崩れず、しかもアオサギの特徴を細部まできっちり捉えているのは見事です。

面白いことに、このアオサギの文字には読みがありません。文字で書かれてはいるものの発音できない、いわばただの印なのです。では何のための印かというと、前に置かれている文字の意味をこれによって決定するのだそうです(決定詞とか限定詞とか言うそうです)。といってもこれでは何のことか分かりませんね。そこで、具体例として次のヒエログリフに登場してもらいましょう。

左の絵、これはちゃんとしたひとつの単語になっていて、もちろん読みもあります。まず読む方向ですが、これがまた面白いのです。ヒエログリフというのは横にも縦にも書ける上に、横書きの場合は右からでも左からでもどちらでもOKです。そして、その向きは鳥や人の顔がどちらを向いているかで決まります。なんと単純明快で融通の利くシステムなのでしょう。素晴らしいです。というわけで、この場合は鳥が左向きに描かれているので左から右へ読むわけですね。

最初に出てくるのが足です。これは足単独でひとつの文字を表しており、下の波線はまた別の文字になります。順番に右に並べて書けばよさそうなものですけど、そうすると隙間が空きすぎて見栄えが悪くなるのでしょう。神聖文字と言われるぐらいですから、意味さえ伝わればいいというものではないのですね。

では、文字をひとつひとつ見ていきましょう。まず足ですが、足が描かれているからといって足を表しているわけではありません。この辺がややこしいところです。ヒエログリフには、描かれている形そのものを表す表意文字と描かれているものに関係なくただの音を表す表音文字が入り交じっています。日本語で漢字と仮名が一緒になっているようなものですね。この足はというと、表音文字のほうで音だけが示されています。

この足記号の音はアルファベットではbに相当します。もっとも、エジプト語の発音と現在のアルファベットの発音は厳密には違いますから、おおよそbに近い発音という程度なのでしょう。つづいてその下にある波線、これはnになります。これらふたつは絵とアルファベットが一対一に対応するケースです。その右の丸い壺は先のふたつとはちょっと違っていて、この壺ひとつでnとwの2語をいっぺんに表します。こういう例は多くて、2語にとどまらず3語を一度に表す文字もあります。そんなわけですから、アルファベットに比べるとヒエログリフの文字の種類は格段に多くなるのです。次に、その右の毛をむしられたような鳥。これはウズラのヒナを象ったものだそうでwを表します。これもまた足や波線と同じくヒエログリフの基本的な文字のひとつです。ということで、以上を続けて読むとbnnwwとなります。ただ、ここでの波線とウズラは壺のふりがなとして使われているだけで実際には読まないのだそうです。なので、正解はbnw。そう簡単には読ませてくれないということですね。なんせ神聖文字ですから敷き居が高いのです。

ではいよいよアオサギの説明です。このアオサギは前に置かれた言葉の限定詞として働くということは先に述べました。ここではbnwという語がアオサギのイメージで限定されているわけです。でもなぜわざわざ余計なイメージを付与されなければならないのでしょうか? なぜbnwだけではダメなのでしょう? じつはこれ、bnwという語が複数の意味を持つことに問題があるのです。いわゆる同音異義語ですね。これは日本語に置き換えて考えてみるとすぐ理解できます。たとえば、日本語の「はし」には複数の意味があって、「はし」とだけ書けば、橋、箸、端のどれを指しているのか分かりません。漢字で書いてはじめて分かるわけです。ヒエログリフの場合も同じで、表音文字だけが並んでいると意味が分からない単語がしばしば出てくるのです。そこで、アオサギのような限定詞が登場して、この単語はこの意味だということを親切に教えてくれるわけですね。

それでは、このbnwの綴りと後ろに置かれたアオサギの記号、これ全部で何を意味するのでしょう? そうです。これがベヌウなのです。bnwの後ろにアオサギの記号を置くことでbnwがアオサギに関連のある言葉に限定されるわけです。じつはベヌウというのはもともとアオサギがモチーフになった鳥なので、bnwにかかる限定詞としてはアオサギほど相応しいものはないのです。

ベヌウは正確にいうと鳥ではありません。神々の暮らす領域に住んでいて、まあベヌウ自身も神様の一員のようなもです。長くなったのでベヌウについてはまた改めて書きたいと思いますが、最後にベヌウの発音についてひと言。ベヌウはベンヌと書かれることもあり、呼び方は統一されていません。というのは、ヒエログリフが子音のみを用いていて母音が略されるからなんですね。ヒエログリフで書かれたエジプト語は紀元前のはるか昔に絶滅していますから、今となっては当時の発音は部分的にしか分からないのです。あとは想像。だから、日本語でもベヌウだったりベンヌだったり、また、英語も同じくbenuだったりbennuだったりします。各自お好みで使ってくださいといったところです。

なお、ここで紹介したベヌウの文字は辞典のようなものから抜き出したものではなく、ヒエログリフについて私が理解できる範囲で、知っている表記規則をもとに推測で書いたものです。全くの素人なので、もしかしたらどこか間違っているかもしれません。もし、間違いに気付いた方がいらっしゃればご指摘いただけると有り難いです。

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