アオサギを議論するページ

不思議なつがい

8月の残りの日々もあとわずかですね。皆さんのところのアオサギは今年も恙なく繁殖シーズンを終えたでしょうか? 私が今年よく観察していた江別のコロニーは、1巣だけヒナがまだ残っているようです。葉っぱで隠れて状況はよく分からないものの、声からしてどうも1羽だけのようです。今シーズン、おそらく400羽近くのヒナが巣立っていき、そしてとうとうこれが最後の1羽となりました。たぶんもう数日と経たないうちにこのヒナもコロニーを離れ、新たな世界に旅立っていくことでしょう。

ところで、毎年同じように繰り返されるアオサギの繁殖シーズンも、じっくり見ていると毎年なんかかんか違ったことや特別なことが起きています。江別のコロニーではカラスによる襲撃が例年になく多発し、その上、シーズン終盤にはオオタカまでが捕食者の仲間に加わるという、ヒナにとってはとんでもなく捕食者運の悪いシーズンとなりました。けれども、今年、このコロニーでもっとも衝撃的だったのはそれとは別の出来事です。ひと言では言い表せないので、当時の状況をそのまま綴ってみます。

その出来事とはつがい関係に関わるものでした。右の写真に写っているのが今回問題となったペアで、拡大して見てもらえれば、若干見かけ上の違いがあるのが分かってもらえるかと思います(カラスはたまたま通りがかっただけで無関係)。手前で首を伸ばしているほうはどこから見ても完全な成鳥です。一方、後ろに見えるほうは、首がまだ灰色っぽく、冠羽も伸びきっておらず、背中の白い繁殖羽もほとんど目立たないといった状態で、たぶん前々年生まれの今年初めて繁殖を試みる若い成鳥かと思われます。つまり、この2羽は外見で区別できるわけです。アオサギは2年目から繁殖を始めますから、この2羽のような組み合わせはとくに珍しいわけではありません。目を見張らざるを得なかったのは、彼らの行動、具体的に言えば交尾行動です。これがどうにも尋常でなかったのです。

おそらく、彼らの交尾を一度目撃しただけなら何とも思わなかったと思います。それ自体は何も変わったことのない通常の交尾でしたから。ところが、二度目に見たときは自分の目を疑わずにはいられませんでした。一度目の交尾では確かに首の白いほうが相手の背中に乗って交尾していたのですが、次に見たときはそれが逆になっていたのです。こうなってはどちらが雄だか雌だか分かりません。分からないけれども、お互いの位置が逆転したことは事実であり、どちらが雄でどちらが雌だったかにかかわらず、雌が雄の背に乗って交尾する場合もあるということになります。ただ、考えてみれば、そもそも雄が上でなければならないというような話は聞いたことがありません。じつは知らないだけで入れ替わりは普通にあること、そういうものなのかなと…。いや、たぶん、そういうものではないでしょう。これは素直におかしいと感じるのが正しいように思います。

じつは、私もこんなことを目撃したのは初めてでしたから、見たことに自信がなく、日を改めて再度確認に行ってきました。すると、また同じように上下入れ替わって交尾しているのですね。さらに別の日に観察しても同じことでした。もはや疑いようがありません。ただ、この状況をどのように解釈するかとなると、交尾時の位置が雌雄で逆転するという説明が唯一絶対の解釈とはなりません。では、他にどのような可能性が考えられるでしょうか? 私はこのつがいは2羽とも雄なのではないかと思っています。というのも、彼らはいずれも相手に上に乗られることをあからさまに嫌がっていましたから。それは2羽いずれにも自分が雌だという意識が無かったからではないかと。

この2羽は妙なペアのわりには数週間にわたってつがい関係を維持していました。けれども、こうした奇妙な交尾の後に卵を産んだ気配はなく、6月の半ばにはとうとう巣を放棄し行方知れずになってしまいました。もっとも、もし雄どうしなら卵を産めるはずもないのですが。

結局、このおかしな出来事は事実の確認にとどまり、その行動をもたらした原因については推測の域を出ません。交尾時の位置が雌雄で変わることがあるのかもしれませんし、雄どうし、あるいは雌どうしのペアが間違って成立することがあるのかもしれません。結局、真相は謎に包まれたままになりました。

この辺の事情についてはサギ類に限らず他に同じような事例が見つかれば、ここでもまた紹介したいと思います。もし、どなたか類似の行動を目撃された方がいらっしゃれば御一報いただけると幸いです。

アオサギ、まだまだミステリアスな存在です。

オオアオサギライブ中継雑感

数ヶ月前にここでもご紹介したオオアオサギの子育てライブ中継。しばらく前にヒナたちが皆巣立ちし、無事に今シーズンの繁殖活動を終えたようです。シーズンを通して24時間の連続撮影でしたから、ヒナたちの成長記録とか親鳥の給餌頻度とか、整理すればとても貴重なデータになるでしょうね。アオサギでもこうした試みに是非トライしてみたいものです。

ところで、この中継を見ながらいつも気になっていたのは、このオオアオサギ一家があまりにも恵まれすぎていること。なにしろ、彼らの巣は広い池の畔にあって、この池で餌がすべて間に合ってしまうのです。子育て最大の試練である餌不足に悩まされるということがほとんどありません。その証拠に5卵産んで5羽とも立派に育ててしまいました。巣立ちは2羽か3羽が普通のオオアオサギですから、このことだけ見ても彼らがいかに恵まれた環境で子育てしていたかが分かります。しかも、このペアは単独営巣で周りに他のサギがいません。餌場はほぼ彼らだけのプライベートエリア。コロニーで営巣していたら起こりうる様々なトラブルとも完全に無縁です。

つまり、この家族はかなり特殊だということなんですね。子育て中の目立ったトラブルといえば、抱卵中にアメリカワシミミズクに襲撃されたことぐらい。じつはアライグマが巣に登ってきたこともありましたが、これは巣立ち後のことで事無きを得ています。それ以外は万事恙なく子育てを終えたという感じです。これを見てオオアオサギやアオサギの子育てというのはこんなものなんだと思われたら、もっと劣悪な環境で必死になって子育てしているオオアオサギやアオサギたちが浮かばれません。

もしまた同じような試みが企てられることがあれば、その時は今回のようなセレブな家族ではなく、もっと庶民的な家族に焦点を当ててほしいなと、ヒナたちが巣立って空っぽになった巣の映像を眺めながら思ったのでした。

シーズン最終盤

7月も終わりますね。皆さんいかがお過ごしでしょうか?
札幌あたりではアオサギの子育てシーズンもそろそろ終わりです。コロニーにボーリングのピンのように突っ立っていたヒナたちも、ここ一週間くらいでぱたぱたっといなくなってしまいました。今は全盛期の1割残っているかどうかというところです。

この時期になると、残っているヒナもあちこち飛び回り、コロニーでは様々なことが無秩序化します。ヒナが自由に飛べるため、親から十分餌をもらえなかったヒナが親の後を飛んで追い回すとか。しかも、それが本当のヒナならまだしも、自分の子か余所の子かさえよく分からなくなっている様子。ヒナのほうは自分の親でも余所の親でもとにかく餌がもらえればいいのでしょうけど、親のほうはやりきれないでしょうね。

そんな狂騒状態が見られるのもあと数日。ぼろぼろになった巣も、その巣を支えてきた木々も、来年の3月までひとまずお役ご免です。

カラス禍

アオサギのヒナにとってカラスはいつも厄介者。毎年、あちこちで相当数のヒナが犠牲になっています。私が普段よく訪れるコロニーでも毎年のようにヒナが襲われるのを見かけます。それがどういうわけか今年はとくにひどいのです。

襲撃者はおそらくハシブトガラス。ハシボソガラスが襲っているのはこれまで見かけたことがありませんし、彼らはよほど小さなヒナが無防備な状態で晒されることでもない限り、通常はアオサギには無害なのではないかと思います。問題はハシブトガラスのほうです。

カラスの標的になるヒナは齢でいうと3週目程度。ヒナがそれより小さい時は親が四六時中付き添っているので、さすがのカラスも襲いません。一方、4週目以降になるとヒナがぐんと大きくなってカラスの手に負えなくなります。親が巣を離れ、小さなヒナだけが残された状況がカラスにとっては狙い目です。

ただ、ヒナも無抵抗にやられるわけではありません。3週目も後半にもなれば、ヒナはカラスより半回りていど小さいだけですし、3羽、4羽の兄弟が束になってカラスを威嚇するわけですから、カラスといえども思うようには攻撃できません。そもそも、そうでなければ親もヒナだけを置いて出ていったりしないはずですし。大丈夫だと思うからこそ巣を離れるのでしょう。そんなことで、カラスは潜在的な捕食者で脅威ではあるけれども、日常的にヒナが襲われるというわけではないのです。

ところが、今年は違いました。5月末からここひと月ほど、カラスによる襲撃が頻繁に繰り返されているのです。その上、今年のカラスはヒナに対する攻撃の手際がとても鮮やかで、1、2分という短時間でヒナを巣から引きずり出してしまいます。しかも、4週目半ばにもなるような大きなヒナまで犠牲になっています。例年だと何羽ものカラスでじわじわと巣を取り囲むこともありますが、今シーズンに限っては襲撃はいつも単独で行われ、周りに仲間がいる様子もありません。そんなわけで、今年のカラスはもしかするといつも同じなのではないかと。しかも、悪いことに、その1羽が大胆な上にテクニックをもったやり手なのです。こんなカラスに居座られてはコロニーのサギたちはたまったものではありません。

適当な写真が無いので襲撃の様子を絵にしてみました。一見、サギとカラスがのどかに会話でもしているかのようですが、実際は双方殺気立っていて見ているほうも写真を撮るような心境ではありません。ただ、状況はこの絵でほぼ分かっていただけるのではないかと思います。カラスとヒナの大きさはだいたいこんなものです。この絵ではヒナは2羽しか描いていませんが、3羽のときもあれば4羽のときもあります。もっとも、このくらいの大きさになれば、4羽いたとしてもカラスの前面に立てるのは、巣の構造上、2羽かせいぜい3羽というところ。なので、兄弟全員が攻撃に参加するということにはなかなかなりません。

さて、そのヒナたちがカラスに向かって次々とくちばしを突き出してくるわけです。その突っつきの早さはヒナとはいえ親鳥と変わりませんから、カラスにしてみればかなりの恐怖感があるはず。カラスはその突っつきを適度な距離をとってかわしながら逆に攻撃します。攻撃といっても、カラスのほうは相手にダメージを与えるのが目的ではありません。あくまで巣から引きずり出しさえすればいいので、ヒナの身体のどこかをくわえようとします。一方、ヒナのほうはくちばしだけで攻撃していればいいものを、自分をできるだけ大きく見せたいのか、絵のように翼を広げて威嚇します。これはカラスには好都合です。掴む場所をヒナに差し出してもらっているようなものですから。

カラスの頭のいいところは、埒があかないと見るとすぐに別の枝に移ってヒナの背後から攻撃をしかけることです。絵のように下に横枝が何本も出ているような巣はカラスにとっておあつらえ向きの攻撃対象。逆に言えば、そうした横枝をもたない巣はカラスに対して安全な巣ということになります。もちろん全く枝が無いのが理想ですが、1本だけならまだ対処できます。ヒナはただ1ヶ所の守りを固めればいいだけですから。そうなると、カラスも容易には手を出せません。

とにかく、何本も横枝があるとカラスは次々に枝を移動し、素早く次の攻撃に移れるわけです。ここでヒナの弱点が露わになります。カラスの移動は一瞬ですが、ヒナはゆっくりとしか巣の中で向きを変えられません。突っつきの早さは一人前でも、足元はまだまだ覚束ないのです。よたよたとカラスのほうに向き直っている間にカラスの攻撃を受けて一巻の終わりです。ヒナを巣から引きずり出して地上に落としてしまえば、たとえ親が戻ってこようが為す術がありません。

6月はヒナがすくすくと育って生命力に溢れる季節。しかし、一方では死の気配が濃厚に感じられる季節でもあります。少し前まで4羽もいて賑やかだった巣が、次に見たら2羽、さらにカラスに襲われて1羽と、どんどん減っていきます。そうした巣が全てではないにしろ、ヒナが次々に生まれ、あるところでピークを迎えた後はヒナの数は減る一方。3週目、4週目という齢はアオサギのヒナにとって死と隣り合わせの期間なのです。けれども、ほとんどの巣ではすでにこの期間を過ぎました。ヒナの減少曲線も6月も終わりともなればかなり緩やかになっているはずです。7月、これからヒナがいなくなるとすれば、それはヒナ自らの選択によるもの。巣立ちの季節到来です。

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