アオサギを議論するページ

年の瀬の冬ねぐら

DSCN00012013年の年末、皆さんいかがお過ごしでしょうか? 地元に帰られている方も多いのではないでしょうか?

帰省ということでいえばアオサギはひと足もふた足も先に越冬地に渡っています。今頃はほとんどのアオサギが寒さに震えることのない南の国で過ごしているはずです。ところが、何を思ってか雪が降っても氷が張っても北国に残り続ける一群のサギたちがいるのですね。写真はそんな果敢なサギたちに会える場所、江別市冬ねぐらの今日の様子です。アオサギを見慣れた人なら画面中ほどの水際に2羽ばかりいるのが確認できるかもしれません。この2羽を含め今日ねぐらにいたのは成鳥6羽と幼鳥4羽。ほかに出かけて留守なのがたぶん2、3羽。この十数羽がこの冬ここで越冬する全メンバーです。

サギたちは羽繕いさえすることなく、雪と水の境目にいつまでもただ静かに佇んでいました。まるで人の世とは別次元の世界に住んでいるかのように。おそらく彼らには彼らなりの時間が流れているのでしょう。
それでは皆さん、よいお年を。

鳥獣保護法の改正があるようです

じつは鳥獣保護法という名の法律はありません。この法律の正式名称は「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」というもので、その名のとおり鳥獣の保護に関する規定だけでなく狩猟に関する規定も数多く記されています。そもそもこの法律は成り立ちからして狩猟のための法律だったものを、何らかの規制をしないと鳥獣がどんどん減ってしまうというので、後から保護のための規則を加えていったものなのです。なので、鳥獣を保護するための法律といっても他人の土俵で相撲をとっているようなどことなく仮住まいの印象が拭えません。野生動物の保護はこうあるべきという理念が条文から見えてこないのです。興味のある方は環境省のこちらのページに全文が載っていますのでどんなものか見てみてください。少なくとも私には時の状況に応じて対処療法的につぎはぎしていった理念のない法律に見えます。しかし、内容がどうであれ、ほとんどの野生鳥獣にとってはこれが保護の拠り所となる唯一の法律なのです。絶滅の危機に瀕しているいわゆる希少鳥獣については種の保存法だとか何だとかいろいろ他にも法の網がかかっていますが、そうではない大多数の鳥獣については自らを守ってくれる法はこれ以外にありません。

その鳥獣保護法が、近々、一部改正されるようです。改正の内容をごく手短にまとめると、一部の鳥獣(とくにシカ)があまりに増えたことで農林業等への被害が深刻化し、現在の法体系の中でやっていたのでは被害の増加に太刀打ちできない、ついては法の規定を作り直して積極的に個体数を調整できるようにしましょうという趣旨のようです。要するに、駆除を促進するための法改正なのですね。この件については環境省のほうから答申(素案)が出ていて、その答申をまとめるに至った経過(議事録)も公表されていますので気になる方は読んでみてください。正直なところ、私はこの問題に関してはシカやイノシシがどのていど増えてどれほど切迫した状況なのかよく知らないため、その賛否についてあまりあれこれ言うのは止めておきます。ただ、答申や議事録を読んでみると、駆除によって個体数を減らすことへの並々ならぬ意気込みが感じられます。ともかくさまざまな手段、制度を駆使して効果的に数を減らす、その手段、制度を正当化するための法改正という感じです。これはなにも悪い意味で言っているのではなく、事実、そういうことなのだと思います。

もちろん状況を改善しようとして制度を変えるのでしょうけど、何かを変えるとその目的以外のものもいろいろ変わってしまいます。たとえば、今回の答申では個体数が著しく増えた鳥獣についてはその捕獲を専門の業者に任せられるように制度を改正するとあります。これまで一般のハンターに駆除を頼んでいたものを、それだけでは足りないので専門の業者に肩代わりしてもらうというものです。要するに商売で駆除を行うようになるわけですね。これは有り体に言うと命の商品化です。動物や鳥が命をもった存在ではなくモノとしてみなされる、社会の中で動物や鳥に対する見方が無意識のうちに変わっていく、これは恐ろしいことです。法の改正に当たってはこうした意図しない変化まできちんとケアする必要があると思いますが、今回の答申からはそこまでの姿勢は感じられません。

ともかく、このことを含め今回の改正で私が危惧するのは保護の視点が極めて薄弱だということです。積極的な駆除を進めていくと必ず何かしらの弊害は出てきます。そうするならそうするで、どのような弊害があるかを見越して保護の体制についても一層充実を図るべきですが、これまでのところそうしたバランスが考慮される気配はなさそうです。これは実は今回が最初ではありません。ここ十数年の間に1999年の鳥獣保護法の一部改正をはじめ鳥獣関係の法律で重要な改正や新設が何度か行われてきました。そして、そのたびに鳥獣の捕獲を促進する制度が新たに加わり、一方、保護については取り立てて話題もなく、両者の力の均衡がますます不釣り合いなものになってきました。鳥獣保護法という名称がどんどん見かけ倒しになっているわけです。

実のところ、今回の改正はアオサギに直接関わってくる内容ではありません。けれども、一見、関わりがなさそうでいて、実はそれとなく関わってくる内容でもあるのです。これはゆるがせにできない問題です。なぜなら、はっきりと特定された対象であれば法の中でしっかりした(かどうかは分かりませんが、少なくとも意識的な)対応がとられますが、そうでない相手に対しては結果的に影響がある場合でも対応が蔑ろにされがちだからです。今回の場合、法の盲点となるのはまさにアオサギのような立ち位置にる鳥獣です。彼らは割を食う不幸な存在になる恐れがあります。だからこそことさらここで話題にするわけです。これは何もアオサギだけとは限りませんが、ここではそういう鳥獣の代表としてアオサギを取り上げて話を続けたいと思います。

今回の改正で問題にされているのは個体数が著しく増え被害が増えているとされる動物たちです。具体的に現在対象となっている種は、ニホンジカを筆頭として、イノシシ、ツキノワグマ、ニホンザル、ニホンカモシカ、カワウの6種になります。この6種はとくに特定鳥獣という名で呼ばれていて、捕獲の規制が緩和されていたり鳥獣行政の中では別格扱いなっています。そのため、特定鳥獣に対しては都道府県が特定計画という特別な管理計画をつくり対応に当たっています。その計画がうまく機能しているかどうかは別として、ともかくも意識的にきちんとした計画のもとに行動しようとしているわけです。

ところが、個体数が増えたとか被害が増えたというような事象は連続的なもので、あるか無いかのふたつに分けられるものではありません。特定鳥獣のカテゴリーに入れられるほどではないけれども、それなりに個体数も増えそれなりに被害も増えているという鳥獣がいるわけです。アオサギはこの位置にいるとみなされています。ただ、どのていど個体数が増えどのていど被害が増えているのかといったことは、本当に漠然としたことしか分かっていません。実感として確かに被害が多くなった、以前にくらべてアオサギをよく見かけるようになったという地域はもちろんあるでしょうけど、一方ではいなくなる地域もあるわけで、全体としてどうなっているのかについてきちんと説明できる人は一人もいません。これは断言できます。ところが、どういう経緯でそう判断されたのかは分かりませんが、個体数も増えているし被害も増えているとみなされているのが現状なのです。

こうしたアオサギのような立ち位置にいる鳥獣については「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」の中で、特定鳥獣に準じた対応をとるようにということが書かれています。しかし、特定鳥獣にすら十分な対応ができかねる状況なのに、それ以外の鳥獣に対してきちんとした鳥獣行政ができるわけがありません。さらにここで指摘しておきたいのは上記指針にある有害鳥獣捕獲の基本的な考え方についてです。そこでは、アオサギを含め狩猟鳥獣などいくつかの種については、捕獲を許可するにあたって被害の実態を十分に調査する必要はなく、捕獲以外の方法による被害防止方法を検討する必要はないと記されています。実際の文は反語的な言い回しが用いられ次のように書かれています。が、内容としては同じことです。

アオサギ、(他の鳥獣は略)以外の鳥獣については、被害が生じることはまれであり、従来の許可実績もごく僅少であることにかんがみ、これらの鳥獣についての有害鳥獣捕獲を目的とした捕獲許可に当たっては、被害の実態を十分に調査するとともに、捕獲以外の方法による被害防止方法を検討した上で許可する等、特に慎重に取り扱うものとする。

要するに、アオサギは特に慎重に取り扱わなくてもいいということです。これは今回の改正とは関係ないことですが、どこの誰が考え出したのだかまったく頭にきますね。被害の実態もろくに調査せず、はじめから捕獲ありきで駆除するなど、アオサギだろうが何だろうが許されるわけがありません。ところが、駆除の実態を調べてみると本当にそういういい加減なやり方がまかり通っているのです。特定鳥獣については実際にどのようなことが行われているのか私はよく知りませんが、少なくとも法律上はしっかり対応しようという姿勢が見てとれます。また、上で引用した指針のとおり、被害にあまり関係しない鳥獣についても「特に慎重に取り扱う」と一応の配慮がなされています。つまり、これら両者の間にいるアオサギを含むいくつかの種だけが意識的に忘れられた存在になっているわけです。保護の観点がすっとんでしまって全てが野放図になっています。法がこんな状態なので行政の現場もいい加減なものです。そのことについてはまたあらためて別の機会に書きたいと思いますが、まあ本当に呆れるほどのひどい状況です。

ともかくアオサギに関しては、駆除の面では特定鳥獣と同じように考えて駆除するけれども、保護の面はほとんど顧みられていないのが実情なのです。これまでの状況を見てみると特定鳥獣に対する駆除とそれ以外の有害鳥獣の駆除は現場では明確に区別されていません。たとえば、特定鳥獣であるカワウもそうでないアオサギも同じように魚を食害する鳥として十把一絡げに駆除されてしまうのです。本当はそういうことがあってはならないのですが、それが鳥獣駆除の実態です。今回の改正では特定鳥獣の捕獲を強力に推進していくことになります。しかし、その捕獲圧の向かう先が特定鳥獣だけに限られると想像するのはまず不可能です。アオサギに対する不必要な駆除がますます多くなると危惧せざるを得ません。

また最初の話に戻りますが、捕獲を推し進めるのならばその一方でバランスがとれるように保護の体制をしっかり固めることが必要です。ところが今回の答申にはその辺の配慮がまったく無いのです。いかに効率よく駆除実績を上げるか、その一点に集中していて周りの状況がまるで見えていません。鳥獣保護法が何かどんどん右傾化していくようでとても気がかりです。

なお、今回の答申については、現在、環境省のほうでパブリックコメントを受け付けています。私も意見を書くために答申はもとより議事録もひととおり読んでみましたが、あれ式の議論で現在の鳥獣保護法の問題点をあぶり出すなどは到底不可能です。今回の改正が特定鳥獣への対応に絞った内容で、それに焦点を当てての議論だったことを考慮してもやはり不十分。ここで取り上げた論点をはじめ蔑ろにできない問題は数多くあります。答申はまだまったく生煮えの状態です。今のうちに徹底的に文句を言ったほうがいいと思います。パブリックコメントの受付は12月17日まで。ご意見のある方は是非!

越冬地で起きていること

先日、台湾のChangさんという方から同国でのアオサギの生息状況について教えていただきました。台湾ではアオサギは冬鳥で、9月下旬頃からぱらぱらと渡ってくるようです。東アジアのアオサギの渡りルートについては何ほども分かっていませんが、山口県から南ベトナムに向かったアオサギもいましたから、日本を発って台湾を経由したりそのままそこに留まったりするアオサギも多いのでしょう。今も続々と渡りつつあるはずです。

そして、春になると逆向きの移動が起こり皆一斉に引き揚げて来る、となりそうですが、ところが実際はそう単純ではないようなのですね。Changさんによると、翌春、成鳥は渡っていくものの、前年生まれの幼鳥はそのまま台湾に留まるのだそうです。もしこれが越冬地全体の傾向だとすればとても興味深いですね。越冬地ということですから何も海外には限りません。国内でも同じ状況が見られるかもしれません。

たとえば、ここ北海道のアオサギは基本的に夏鳥ですから、彼らがこちらで過ごすのは繁殖シーズンだけです。もし越冬地に残るのが幼鳥の一般的な行動だとすると、繁殖期には北海道には幼鳥がいないことになります。そして、実際、いないのです。全くいないわけではありませんが、成鳥に比べれば無視できるほど少ないのです。考えてみれば、アオサギが繁殖を開始するのは2年目からなので、生まれた翌年に繁殖地に来てもとくにやることもないのですね。たまにコロニーを訪れてぶらぶらしている幼鳥を見かけますが、巣をのぞき込んでヒナたちに怒られるのが関の山です。わざわざ時間と労力をかけて繁殖地に戻ってくるより、餌さえ獲れるのであれば越冬地で気ままに過ごすことのほうが、行動としてはむしろ適応的といえるかもしれません。

今のところ確定的なデータがあるわけではなく多くは推測にすぎませんが、今後、ぜひとも明らかにしていきたいテーマですね。1年目幼鳥が越冬地に残るケースや繁殖地での幼鳥の割合が異常に少ないケースなど、もしご存知でしたら教えていただけると大変有り難いです。

さて、越冬地の話題が出たついでに、国内での越冬状況について少し見てみたいと思います。こちらのページは環境省が調査したデータを私が整理し直したもので、国内の主要な水辺でのアオサギ個体数の季節変化が表示されています。この資料、説明には書いていませんが、どうも鳥インフルエンザ対策の一環として調査されたもののようで、生息調査としての厳密性はそもそも重視されていないようです。そのせいか、観察場所によりデータのとられ方が区々で、同じ観察地点でも年度によって調査手法が異なっていたりします。ですので、単純にグラフを見比べてあれこれ検討するのは危険です。その点に注意して御覧いただければと思います。なお、環境省のサイトに表示されている昨秋から今春までのデータについては、現在、暫定値のため今回のグラフには含めていません。

ということで、いろいろ見ているわけですが、それぞれ地域によって特徴が出ていて面白いですね。北海道のほうはさすがに真冬はいなくなりますが、函館辺りになると冬じゅう残っているようです。本州の日本海側も数は少ないもののまったくいなくはならないようで。一方、瀬戸内周辺にはかなり集まっているようですね。宮崎県の調整池などは真冬が一番個体数が多くなっているように見えます。これぞ越冬地というところでしょうか。沖縄の漫湖は春の渡り時期だけ個体数が増える年があります。これは渡りの中継地として利用されているということなのでしょう。ただ、他の年は冬中いるようで、同じ場所でも年によって利用のされ方が変わるようです。冬のアオサギ、知らないことがまだまだたくさんありそうですね。

ついさっき、札幌の自宅上空をアオサギがひと声鳴いて通り過ぎていきました。夜空を南へ、渡りでしょうか。明日から11月、アオサギの渡りもそろそろ終盤です。

秋の渡り

渡りの季節ですね。急に涼しくなってそわそわしているアオサギも多いのではないでしょうか。

今回はそのアオサギの渡り時期について書いてみたいと思います。とはいえ、分かることはあまり多くはありません。ただ、北海道などではアオサギが渡ることははっきりしていますから、同じ場所に腰を据えて見ていれば、いつ頃渡るのかというのはおおよそ見当が付きます。

nottsuke右の図は私が北海道の野付湾でアオサギを観察していた頃のもので、湾内に飛来するアオサギ個体数の季節変化を表したものです(グラフ上の点の種類は潮汐条件によって分けたものなのでここでは無視してください)。野付湾は水深の浅い湾で、干潮時にできる浅瀬はアオサギにとって絶好の餌場となります(下の写真)。おそらく、国内を探してもアオサギがこれほど高密度にいる餌場は無いのではないかと。そのくらい水面がアオサギだらけになるところなのです。

野付湾での採餌この地域ではアオサギは3月末に飛来し、4月から7月にかけて繁殖活動を行います。その間、遅れて渡ってくるのがいたりヒナが生まれたりで餌場の利用頻度は少しずつ上昇していきます。さらに幼鳥の巣立ち後はその分だけ餌場の個体数が増えることになります。それが8月頃の状況です。ここのサギたちは餌場が野付湾にほぼ限られるため、基本的にはこの8月の個体数がこの地域のアオサギの総数になります。ところが、面白いことに野付湾では9月になるとさらにアオサギの数が増えるのです。

この増加分はほぼ間違いなく他所からやってきたサギたちによるものです。つまり、この時点で秋の渡りが始まっているということですね。ただ、彼らがどこからやってくるのかは分かっていません。野付湾の北のほうには網走湖のコロニーなど大小のコロニーがいくつかありますから、そこのサギたちが知床半島を横切って野付に下りてくるのかもしれません。オオハクチョウなどは知床越えのルートを通っていますから、アオサギが同じことをしていても不思議ではありません。けれども、もっとありそうなのは国後や択捉からの飛来です。国後から野付はほんとに目と鼻の先。風に乗ってぱたぱたやっていればアオサギなら20分もかからず着いてしまうでしょう。

そんなわけで、9月の野付湾はもともといたのと渡って来たので800羽を超えるアオサギたちが集結することになります。けれども、そんなお祭りのような状態は長くは続きません。そんなにサギだらけではそこにいる魚たちも大変でしょうし。やがてサギたちはより南の水辺を目指して渡っていくことになります。ただし、ガンやハクチョウなどのように一斉にいなくなるということはありません。渡りは長い期間にわたって続き、遅いのは12月初めまで残っていたりもします。けれども、がんばってもそこまでです。それ以降は水面が凍って餌場になりませんから。

北海道の場合、アオサギの渡りはだいたいどこもこんな感じだと思います。ただ、北海道でも川が冬でも凍らないようなところは、とくに最近、越冬するアオサギも稀ではなくなってきました。餌が獲れさえすれば寒さは大した障害ではないのかもしれません。何と言っても自家製のダウンをしっかり着込んでいるわけですしね。

ともあれ、この先の季節、北海道のアオサギは減ることはあっても増えることはありません。季節が秋めいてくるにつれ北風に削られるように減っていきます。どこへ行くとも言わず、ただいなくなってしまいます。四国、九州あたりで留まるのか、それとも東南アジアのほうまで足を伸ばすのか。知りたくもあり、知らずにあれこれ思いを巡らすほうが良いようでもあり。ともかく、来春また元気で帰ってくることを願うばかりです。

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