アオサギを議論するページ

サギ科の系統分類

今回はわりとストレートにアオサギの系統分類についてご紹介したいと思います。つい先日、科学雑誌のNatureに鳥類の包括的な系統樹を示した論文が載っていました(こちらで要約が見られます)。ここに載せられた系統樹はさまざまな種の遺伝子を分析して得られたもので、分析の対象はごく一部の鳥だけに限られています。ただ、一部とはいえ主要な科はだいたい調べているので、たとえばサギ科とどの科が近縁かといったことはかなり正確に分かります。

Prum右の図はその論文に載っていた系統樹からサギ科に近い部分だけを抜粋したものです。こうして見ると、予想に違わない位置にある科もあれば、なぜそんなところにあるのかよく分からない科もあります。まず驚くのはサギ科からみてコウノトリ科がずいぶん離れた位置にあること。体型という点では、サギ科に一番似ているのはコウノトリのはずなのに、コウノトリはウやカツオドリより類縁関係が遠いのです。これはびっくり。

一方、トキ科はサギ科と比較的近いところにあって、こちらはまあ違和感はありません。しかし、面白いのはそのトキよりさらに近いところにペリカンがいること。つまり、サギ科の祖先からはまずコウノトリ科が分化し、その後、トキ科が分かれ、最後にペリカンやそれに近い科が分岐していったということです。 系統というのは見かけではなかなか分からないものですね。

遺伝子分析で鳥の系統を明らかにする試みはこれが初めてではなく、もうずいぶん前から多くの研究がなされています。そして、それらの研究の中でサギ科の位置づけを大きく変えたのが2008年にScience誌に載った論文でした。この研究により、サギ科はペリカン科に近く、コウノトリ科とはかなりかけ離れた位置にいることが遺伝子レベルではっきり示されたのです。

Jarvisまた、昨年暮れには、同じくScienceに別のグループが行った論文が載りました(こちらで系統樹のみ見られます)。この研究はコウノトリ科を調べていないのが残念すが、サギやトキ、ペリカンの類縁関係は上の図とまったく同じです。これら3科の鳥たちが極めて近い関係にあるのはどうやら間違いなさそうですね。

こうした類縁関係はIOC(国際鳥学会議)が公開しているBird Listにも反映されています。以前、サギ科はコウノトリ目に分類されていたのですが、現在はトキ科とともにペリカン目に編入されています。コウノトリはというと、そのままコウノトリ目に留まっています。リスト上の分類が変わっただけとはいえ、長らく一緒で、一緒にいることが当然と思っていただけに、こういう事態になるとやはり一抹の寂しさを感じます。

ところで、アオサギが新たに居を定めることになったペリカン目の内訳はどうなっているのでしょう。現在のペリカン目は最初の図の下半分、つまり、トキ科、サギ科、シュモクドリ科、ハシビロコウ科、ペリカン科の5科で構成されています。このうちシュモクドリ科はシュモクドリのみ、ハシビロコウ科はハシビロコウのみ、いずれも1科1属1種という小さなグループです。では、目名にもなっているペリカン科はどうでしょう。じつはこちらもたいして大きなグループではなく、わずか1属8種しかいません。トキ科になるとやや種数が多く13属35種。しかしそれでも19属66種を擁するサギ科にはまるで敵いません。種数だけでみればサギ科が文句なく多数派なのです。ならば、目の名前もペリカン目でなくサギ目にすればと思ってしまいますが、それは都合が良すぎるというもの。サギ科はコウノトリ目を追い出され、ペリカン目に大所帯で押しかけてきたようなものですから。ペリカン目のほうがもともとあって由緒正しいということなのでしょう。

Diagramついでなので、サギ科についてもう少し詳しく見てみたいと思います。右の図は”The Herons” (J.A. Kushlan and J.A. Hancock. 2005) にあった図をIOCのBird Listを参考に多少アレンジしたものです。中心から外に向かって、亜科、族、属の順に細かくなっていきます。緑で示したのが亜科で5つあります。このうちArdeinae亜科はグループが大きいため、亜科の下にさらに3つの族が設けられています。アオサギが属するのはこのうちのArdeini族で、ここからさらに4つの属に分かれます。その先に種、さらには亜種へと続いていくわけです。

図中、和名で記したのは日本にいる主なサギたちです。和名の位置でそれぞれの種がどの属に該当するのかを示しています。これを見ると、種数が多くないわりにはそれぞれの種が比較的まんべんなく別々の属にちらばっているのが分かるかと思います。これは当然といえば当然のことで、同じ属のサギ、つまり似たような生態的地位を占めるサギは同じような環境で共存するのは難しいということなのでしょう。

ちなみに、アオサギの属するArdea属は11種のサギたちで構成されています。同じ属ですから姿形はどの種もだいたい似たり寄ったり。しかし、色や大きさ、生息環境や繁殖行動などは種によってじつにさまざまです。似ているけれども違う、それがまた彼らの魅力でもあります。サギ類すべてとは言いませんが、死ぬまでに少なくともArdea属の11種だけでもお目にかかりたいものです。


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