アオサギを議論するページ

怪獣か隣人か

アオサギの子育てシーズンも3分の1が過ぎたということろでしょうか。ここ北海道でもコロニーからヒナのか細い声がかすかに聞こえるようになりました。この時期になると何かとアオサギ関連の記事が新聞紙面を賑わせます。記事の内容は主に風物詩的なものと被害関係のもののふたつ。春先の記事は、今年もアオサギがやってきたという他愛のない風物詩的なもので、営巣が本格的に始まってからの記事はだいたい被害の話と相場が決まっています。被害関連の記事は今シーズンも気付いただけでこれまで2件ありました。そのうちのひとつがちょっと変わっていたので紹介したいと思います。

まずは変わらないほうのごくありきたりな記事から。これはつい先日の徳島新聞に載ったものです(リンク)。アオサギのフンで公園の木が枯れる、声がうるさい、といった定番の内容で、被害に対する住民の反応も予定調和のようにオーソドックスなものです。それはまあそういうものなのでしょうけど、この手の記事には私はどうしても引っかかります。この記事を読めば、よほどアオサギや生き物に思い入れのある人でない限り、駆除もやむなしという考えに傾いてしまうのではないかと思うのです。このような記事が地域内で何度も書かれたり、全国のあちこちで取り上げられたりするうちに、アオサギに対するネガティブな感覚がやがて社会のコンセンサスになる、私はそのことをとても恐れます。今回はたまたま徳島新聞でしたが、アオサギの被害記事に関する限りどこの新聞も大同小異です。

さて、紹介したいもうひとつの記事ですが、こちらは1週間ほど前の中日新聞に載っていたものです(リンク)。こちらも被害の内訳はフンが汚い声がうるさいのお馴染みの2点セット。徳島のケースと変わりません。ですが、この記事は必ずしもアオサギに敵対的ではない住民の意見を載せているところに価値があります。

自然のもんだから仕方ない。昔みたいに子どもらが山で遊ばんからあの人(アオサギ)らも安心してるだろう

被害はたしかに現実のものとしてあります。けれども、その被害をどのていどのものと感じるかはその人次第。そして、その感じ方は普段アオサギをどのような存在と認識しているかによって変わります。「自然のもんだから仕方ない」と言った81歳のおじいさんにとって、アオサギは「あの人」なのです。これは言葉の綾だけではないでしょう。近くに住むアオサギを何だか訳の分からない迷惑なだけのエイリアンと捉えるか、同じ土地で暮らす隣人と捉えるかで、アオサギの行為に対する心の持ちようはまったく変わってきます。

アオサギの被害記事を書くすべての記者にこのことを知ってほしいと切に願っています。

オオアオサギのライブ中継

今年もまたアオサギの子育てシーズンですね。ここ札幌近辺のコロニーではつい先日巣作りがはじまったばかりですが、お住まいの地域によってはヒナがもう生まれているのではないでしょうか。シーズンになると私も近くのコロニーによく観察に行きます。けれどもよほど条件の良いコロニーでも100mも離れたところから双眼鏡やスコープで観察するのが関の山ですし、街中のコロニーは近寄れはするものの樹上を仰ぎ見るようなことになってしまい巣の中の状況はかえって分かりません。そんなわけで、子育ての様子やヒナの状況を細かいところまで観察しようとすると従来の方法ではどうしても限界を感じざるを得ません。それなら巣の近くにビデオを取り付けようというのが今回ご紹介するウェブカメラです。

これは今更紹介するほどでもないのですが、日本では営巣の様子を撮影するのを問題視する風潮があるせいか、いまいち馴染みが薄いように思います。ということで今回敢えて取り上げてみました。別に特段のことはなく、子育ての映像をネット上でライブ中継するというものです。海外のサギ類では少なくとも7、8年前にはすでに試みられていたように思います。当時からいろいろな団体、組織が各地で独自にライブ中継していました。そんな中、もっとも人気のあったのはニューヨークのコーネル大学が企画したものでしょう。これはオオアオサギを対象としたライブストリーミングで、2012年から2年つづけてシーズンを通してほぼ途切れることなく四六時中ライブ中継されていました。何が素晴らしいといって、子育ての様子がパソコンのディスプレイ上で間近にしかもリアルタイムに見られるのです。間近で観察して初めて分かることは多いですし、誰も見ていなくても連続して映像が記録されていることの科学的価値は計り知れません。ともかく、あの企画はオオアオサギへの理解を深めることに格段の貢献をしたと思います。当時のカメラ設置の様子などはこちらに記録されています。当時の映像は「great blue heron cam」などで検索すればいくらでも出てきますので、ご覧になったことがない方はぜひ見てみてください。

残念ながらコーネル大学のウェブカムは3年目にオオアオサギが巣に戻ってこなくなったため打ち切りになりましたが、オオアオサギについては現在稼働中のウェブカムは他にもいくつかあります。たとえばバンクーバーのスタンリーパーク。ウェブカムの映像はこのページで見られます。こちらはコーネル大学に比べるとかなり引いた映像となっています。というのも、コーネル大学ではカメラが巣の真横に付けられていたのに対して、スタンリーパークのほうはコロニーに隣接するビルの屋上に設置されたものだからです。写真のビルの屋上中央に白く小さく見えているのがカメラです。ここは子育ての様子を詳細に観察するというよりは、オオアオサギのことを少しでも多くの人たちに知ってもらい親しみをもってもらおうというのが目的のようです。なので、カメラは映像を見ている人が自由に動かせる仕様になっており、上記リンクページの映像画面から誰でも操作できます。

もっとも、見ていて興味がより持続するのはやはり間近に設置されているカメラだと思います。ただ、その場合はカメラを向けている巣にサギが来なかったらそのシーズンは棒に振ります。たとえば、東海岸のチェサピーク湾に設置されているウェブカムは現在このような映像で、説明がなければ何を撮ろうとしているのか分かりません。まだ時期が早いのでこれからここに巣をつくりはじめるかもしれませんが、このまま誰も来ない可能性も十分あります。賭けのようなものです。その点、スタンリーパークで設置しているカメラの映像は当たり外れがありません。コロニーが放棄されない限り、どっかこっかの巣は必ず見えますから。なお、スタンリーパークの映像は夜になると画面が真っ暗になりますので注意してください。今の時期ならこちらの夜11時頃にようやく明るくなって映りはじめます。

他に住む場所がないから

ここしばらくアオサギの営巣場所についていろいろ考えています。というのも北海道の営巣地を調べてみると、昔は無かったタイプの営巣地が最近になってぱらぱらと見られるようになってきたからです。以前にもご紹介しましたが、たとえば瀬棚や北檜山のコロニーではダム湖やため池の半ば浸水した木に巣がかけられています。また、江差町や福島町など、沖合の島で暮らすサギたちもいます。それから、少し前まではダム湖のブイで営巣していたアオサギもいました。じつはこれらのコロニーにはひとつの共通点があります。いずれのコロニーも巣の周りが水で囲まれているのです。これは地上性捕食者を近寄らせないための工夫だと思われます。このようなタイプのコロニーは全道で9ヶ所確認されていますが、いずれも大なり小なり不便を抱えています。通常の営巣環境と比べると巣立ちに成功するヒナ数もおそらく少ないでしょう。好き好んでそんな場所に巣をつくるとは考えられません。他に子育てできる場所がないから仕方なく不便な環境を選んでいるのです。

では、なぜ従来のような環境で普通に樹上営巣をしないのでしょうか? これはほぼ間違いなく地上性捕食者が原因です。北海道の場合、捕食者はアライグマであったりヒグマであったり。もしかすると両方かもしれません。実際、北海道ではアライグマもヒグマも木に登ってアオサギのヒナを襲っているところが目撃されています。彼らのいる場所と地続きで暮らす限りいつ襲撃されても不思議ではないのです。襲われるのが嫌なら何らかの障壁を築いて彼らが巣にアプローチできないようにするしかありません。その障壁のひとつが水というわけです。

そのことで最近ひとつ思いついたことがあります。かつて釧路湿原にあったコロニーのことです。ここは昔は道内屈指の大規模コロニーでしたが、2000年頃を最後に消滅していまいました。放棄された原因については野火や餌場環境の変化などいろいろ言われています。しかし、湿原の中にあるコロニーのため人目に触れることがほとんどく、確かなことは分かっていません。私はこのコロニーももしかすると地上性捕食者の犠牲になったのではないかと考えています。その推理でいくと諸悪の根源はこの湿原の真ん中には堤防道路にあります。こんな愚かなものをつくったために湿原が北と南に分断され、コロニーのあった南半分が乾燥化してしまったのです。乾燥化すればそれまで近寄れなかった湿原の内部にほ乳類が侵入できるようになります。そうなればアオサギの聖域にヒグマやアライグマが到達するのはもはや時間の問題。不幸なことに釧路湿原のサギたちは樹高の低いハンノキ林(多くは10m以下)に営巣しており、もし狙われたとしたらひとたまりもなかったでしょう。 もちろんこれはただの推測というか思いつきに過ぎませんが、可能性としてはまったく無視できるものでもないような気がします。

ところで、さっき捕食者を近寄らせないための障壁について書きました。そのひとつが水であると。じつはもうひとつあります。アライグマやヒグマが来ない場所、それは街中です。最近、街中の小さな樹林にコロニーができることが多くなってきています。住宅街の中にある孤立林はアオサギにとっては格好の避難所なのです。

こうした避難所は街の中や水で囲まれた場所だけではないかもしれません。普段、何気なく見るコロニーも、なぜこんな場所にあるのかと考えると疑問に思う場所が少なくありません。そして、それを地上性捕食者からの逃避という視点で見直してみると納得できるケースが多々あるのです。すべてをアライグマやヒグマのせいにはできないにしても、従来とは違う変な場所につくられたコロニーが地上性捕食者からの逃避を目的としている場合は想像以上に多いのではないかと思います。

道の統計によると、アライグマもヒグマもここ数十年増加傾向にあるようです(アライグマの資料ヒグマの資料)。加えて、ここ数十年のスパンで見るとアオサギも増えています。両者とも増えたことでお互いに出会う機会が多くなり、結果としてアオサギが襲われるケースも増えたということなのでしょう。

だとすれば、おかしなところで子育てするアオサギは今後も増えるかもしれません。けれども、彼らが避難所として使えるような都合の良い場所が果たしてどれだけあるでしょうか? 街中の孤立林で人が快く受け入れてくれるところはそう簡単には見つけられません。水で囲まれた営巣環境を見つけるのはさらに難しいことでしょう。

昔は北海道は湿地だらけで、湿原内のハンノキ林など地上性捕食者をシャットアウトできる優れた営巣環境があちこちにありました。ところがそうした場所は人がどんどん潰していき、びじゃびじゃな環境は今ではもう猫の額ほどになってしまいました。アオサギは樹林があればどこでも営巣できると考えるのは大間違いです。彼らにとって安全な樹林はもう僅かしか残っていないのかもしれません。アオサギにとって湿地がどれほど重要な環境だったか、今あらためて考えさせられています。

謹賀新年

明けましておめでとうございます。

毎年アオサギしか登場しない私の年賀状ですが、今年はトリ年なので例年ほど違和感はないですね。ということで、今回はサギたちを4羽並べてみました。じつはこの中に1羽だけ変わり者がいます。3羽は日本のアオサギ、1羽は北米のオオアオサギです。オオアオサギがいるのは北米だけ。一方のアオサギはアメリカ大陸にはいません。なので自然界で両者が出会うことはまずないのです。

さて、そのオオアオサギ、どの鳥だか分かりましたでしょうか?

左上だと思われた方、残念です。たしかに外見はこの鳥がもっとも違って見えますが、それはこの鳥がまだ若いからなのですね。まだ1歳になるかならないかというところ。他の3羽に比べて肩や側頭の羽毛がまだ黒くなっていません。成鳥の見かけになるにはもう1年待つ必要があります。

1羽だけくちばしが赤いのに気付いて右下だと答えられた方、これも間違いです。じつはこの鳥、婚姻色に染まっているのです。春先、アオサギが一番艶やかになったときの装いがこれです。この時期を過ぎると婚姻色はだんだん褪せてくすんだ黄色に戻ります。左下の鳥がそうですね。子育ての一番忙しい時期が過ぎて一段落といった感じでしょうか。

というわけで正解は右上の鳥でした。オオアオサギのくちばしは求愛期も黄色くなるていどでアオサギほど鮮やかには変色しません。首もアオサギのように真っ白ではなくやや灰色。と書くとアオサギのほうがなんだか派手な気がしますが、オオアオサギも南のほうに行くと真っ白(アルビノではない)になったりするのでなかなか侮れないのです。

ちょっと問題が難しかったですね。私も同じものを他の人から出題されていたら悩んだかもしれません。じつはアオサギの3枚は旭川の同じコロニーで撮っています。針葉樹の植林地にあるコロニーで、写真に写っている木はすべてドイツトウヒ。そこに着目された方、鋭いです!

そんなことで今年も引き続きジャンルにこだわらずアオサギのことを何でも書いていきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いします。

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