アオサギを議論するページ

カラス禍

アオサギのヒナにとってカラスはいつも厄介者。毎年、あちこちで相当数のヒナが犠牲になっています。私が普段よく訪れるコロニーでも毎年のようにヒナが襲われるのを見かけます。それがどういうわけか今年はとくにひどいのです。

襲撃者はおそらくハシブトガラス。ハシボソガラスが襲っているのはこれまで見かけたことがありませんし、彼らはよほど小さなヒナが無防備な状態で晒されることでもない限り、通常はアオサギには無害なのではないかと思います。問題はハシブトガラスのほうです。

カラスの標的になるヒナは齢でいうと3週目程度。ヒナがそれより小さい時は親が四六時中付き添っているので、さすがのカラスも襲いません。一方、4週目以降になるとヒナがぐんと大きくなってカラスの手に負えなくなります。親が巣を離れ、小さなヒナだけが残された状況がカラスにとっては狙い目です。

ただ、ヒナも無抵抗にやられるわけではありません。3週目も後半にもなれば、ヒナはカラスより半回りていど小さいだけですし、3羽、4羽の兄弟が束になってカラスを威嚇するわけですから、カラスといえども思うようには攻撃できません。そもそも、そうでなければ親もヒナだけを置いて出ていったりしないはずですし。大丈夫だと思うからこそ巣を離れるのでしょう。そんなことで、カラスは潜在的な捕食者で脅威ではあるけれども、日常的にヒナが襲われるというわけではないのです。

ところが、今年は違いました。5月末からここひと月ほど、カラスによる襲撃が頻繁に繰り返されているのです。その上、今年のカラスはヒナに対する攻撃の手際がとても鮮やかで、1、2分という短時間でヒナを巣から引きずり出してしまいます。しかも、4週目半ばにもなるような大きなヒナまで犠牲になっています。例年だと何羽ものカラスでじわじわと巣を取り囲むこともありますが、今シーズンに限っては襲撃はいつも単独で行われ、周りに仲間がいる様子もありません。そんなわけで、今年のカラスはもしかするといつも同じなのではないかと。しかも、悪いことに、その1羽が大胆な上にテクニックをもったやり手なのです。こんなカラスに居座られてはコロニーのサギたちはたまったものではありません。

適当な写真が無いので襲撃の様子を絵にしてみました。一見、サギとカラスがのどかに会話でもしているかのようですが、実際は双方殺気立っていて見ているほうも写真を撮るような心境ではありません。ただ、状況はこの絵でほぼ分かっていただけるのではないかと思います。カラスとヒナの大きさはだいたいこんなものです。この絵ではヒナは2羽しか描いていませんが、3羽のときもあれば4羽のときもあります。もっとも、このくらいの大きさになれば、4羽いたとしてもカラスの前面に立てるのは、巣の構造上、2羽かせいぜい3羽というところ。なので、兄弟全員が攻撃に参加するということにはなかなかなりません。

さて、そのヒナたちがカラスに向かって次々とくちばしを突き出してくるわけです。その突っつきの早さはヒナとはいえ親鳥と変わりませんから、カラスにしてみればかなりの恐怖感があるはず。カラスはその突っつきを適度な距離をとってかわしながら逆に攻撃します。攻撃といっても、カラスのほうは相手にダメージを与えるのが目的ではありません。あくまで巣から引きずり出しさえすればいいので、ヒナの身体のどこかをくわえようとします。一方、ヒナのほうはくちばしだけで攻撃していればいいものを、自分をできるだけ大きく見せたいのか、絵のように翼を広げて威嚇します。これはカラスには好都合です。掴む場所をヒナに差し出してもらっているようなものですから。

カラスの頭のいいところは、埒があかないと見るとすぐに別の枝に移ってヒナの背後から攻撃をしかけることです。絵のように下に横枝が何本も出ているような巣はカラスにとっておあつらえ向きの攻撃対象。逆に言えば、そうした横枝をもたない巣はカラスに対して安全な巣ということになります。もちろん全く枝が無いのが理想ですが、1本だけならまだ対処できます。ヒナはただ1ヶ所の守りを固めればいいだけですから。そうなると、カラスも容易には手を出せません。

とにかく、何本も横枝があるとカラスは次々に枝を移動し、素早く次の攻撃に移れるわけです。ここでヒナの弱点が露わになります。カラスの移動は一瞬ですが、ヒナはゆっくりとしか巣の中で向きを変えられません。突っつきの早さは一人前でも、足元はまだまだ覚束ないのです。よたよたとカラスのほうに向き直っている間にカラスの攻撃を受けて一巻の終わりです。ヒナを巣から引きずり出して地上に落としてしまえば、たとえ親が戻ってこようが為す術がありません。

6月はヒナがすくすくと育って生命力に溢れる季節。しかし、一方では死の気配が濃厚に感じられる季節でもあります。少し前まで4羽もいて賑やかだった巣が、次に見たら2羽、さらにカラスに襲われて1羽と、どんどん減っていきます。そうした巣が全てではないにしろ、ヒナが次々に生まれ、あるところでピークを迎えた後はヒナの数は減る一方。3週目、4週目という齢はアオサギのヒナにとって死と隣り合わせの期間なのです。けれども、ほとんどの巣ではすでにこの期間を過ぎました。ヒナの減少曲線も6月も終わりともなればかなり緩やかになっているはずです。7月、これからヒナがいなくなるとすれば、それはヒナ自らの選択によるもの。巣立ちの季節到来です。

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