アオサギを議論するページ

生息状況調査の必要性

近年、アオサギが増えているという話をよく聞きます。しかし、これはどこまで根拠のある話なのでしょうか?

たとえば、私が調査している北海道では1960年から2000年にかけて、営巣数が約4.5倍に増えています。具体的には約1000巣から約4,500巣への増加です。もっとも、1960年の営巣数は文献から得た値なので見落とされているコロニーがあるかもしれず、そうであれば実際はもう少し多かった可能性があります。ただ、当時の値が過小評価されているとしても倍も違うようなことはまずないので、2000年から比べるとずっと少ないのは間違いないでしょう。つまり、北海道では2000年までの40年間でアオサギが増えたことはどうやら確からしいのです。ついでに言うと、もうひとつ注目すべきはコロニーの数の変化です。1960年のコロニーはたった6ヶ所。これが2000年には75ヶ所と十倍以上に増えています。これはコロニーが分散してひとつひとつのコロニーが小規模になったことを示しています。以前は餌が豊富で安心して子育てできる環境に多くのアオサギが集まっていたのが、そのような条件の良いところがどんどん減ったために、小さな集団に分かれてなんとか暮らせる場所を見つけざるを得なくなったということです。数は確かに増えたかもしれませんが、アオサギにとって決して喜べるような状況ではないのですね。

では、国内の他の地域はどうなのでしょう? これについては以前、ここに書いたとおりで、全国的な傾向についてはほとんど分かっていません。全県で毎年サギ類のモニタリングをしている福井県のような奇特なところが無いわけではありませんが、これはほんとに例外中の例外。基本的にはどの都道府県もサギなどどこ吹く風といった感じです。民間で調査されているところもごく僅かです。世間で増えた増えたと言っているのは多分に感覚的なもので、そのほとんどは確証があって言っているわけではないのです。

北海道に限らず、他の地域でもアオサギが増えている可能性はあります。私も感覚的なことしか言えませんが、以前に比べて増えたのはおそらく間違いないと思います。ただ、世間が思っているほどの大幅な増え方はしていないと思うのです。つまり、多くなったと感じるのは目に付きやすくなっただけなのではないかと。先に書いた小規模分散化の傾向は北海道だけに限りません。分散化すればそれだけアオサギの分布域は広がります。アオサギは集団で繁殖する鳥ですから、コロニー付近では頻繁に見かますが、あるていど離れるとさっぱりいなくなります。ところが、コロニーの分布域が広がれば、たとえそれが小規模なコロニーであっても、アオサギを見かける地域は広くなります。どこに行ってもアオサギがいる、どこでも見かける鳥、ということになってくるわけです。とくに最近は都市域までアオサギが進出するようになり、その点でもアオサギが目撃される機会は格段に増えたと思います。要するに、よく見かけるようになったからといって、必ずしも見かける頻度に比例して個体数が増えているわけではないということですね。

いろいろ書いてきましたが、何が言いたいのかというと、国内のアオサギの生息状況に関する認識はこのていどだということです。これがたとえばヨーロッパのほうだと、たいていの国できちんと生息数が調べられており、細かいところでは1巣単位、大雑把なところでも100巣単位で国中の巣数が見積もられています。あちらに比べると日本を含めたアジア地域は地形や植生が複雑だったり何かと調査しにくい気もしますが、それでもやるところはちゃんとやっています。たとえば韓国。これは先日の鳥学会で発表されたものですが、韓国では国中のサギの巣が調べられています。全国で35,512巣、そのうち37.8%がアオサギの巣なのだそうです。ここまで細かく調べられたとは、もうお見事というほかありません。ともかく、韓国でできるのですから、地形が植生がというのは言い訳にはなりません。日本でも同レベルの調査が早急に必要です。

ところで、アオサギの生息状況調査の必要性をなぜこんなに強調しなければならないのか、それには理由があります。たとえば、アオサギが人の知らないところでひっそりと暮らし、これまで人の影響をまったく受けたこともなく、これからも受けることがない、彼らがそんな相手なら調査にそれほど差し迫った必要性はありません。しかし、彼らの生活は人の生活と無縁ではなく、その関係は近年ますます深まってきているのが実情です。そして今、その行き着くところが駆除という形で表面化してきているのです。アオサギの駆除については、以前、ここに書いたとおりで、駆除数だけ見てもここ十数年の間に異常な増え方をしており、とても無視できる問題ではなくなってきています。もちろん駆除するからにはそれなりの理由はあるのでしょう。しかし、問題は駆除することでアオサギにどのような影響があるかをまったく予測することなく、ただ被害があるからというだけで盲目的にアオサギが殺されていることなのです。鳥獣保護法の指針には、有害駆除は科学的な知見に基づき計画的に実施しなければならないとはっきり書かれています。アオサギの生息状況すら把握できていないのに、どのようにすれば科学的で計画的な駆除が行えるのでしょうか?

アオサギの生息数の話がいつの間にか行政批判になってしまいましたが、日本の鳥獣管理行政は、少なくともアオサギの管理に関する限り徹底的に無策としか言いようがありません。しかし、それと同じぐらい問題なのは、その行政のいい加減さを知る人があまりに少ないということです。これはアオサギにとって本当に不幸なことです。アオサギに限らず、鳥獣行政の実態を少しでも多くの人に知ってもらえればとつくづく思います。今回はとりあえずこれで終わりますが、鳥獣行政については私も多少調べてきましたので、近日中にもっと詳しい報告ができればと思っています。

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