アオサギを議論するページ

巣立ちヒナ数

DSCN0015早いもので、アオサギの子育てシーズンも終わりに近づいてきました。札幌近郊のコロニーではヒナが飛びはじめ、空っぽになる巣もそろそろ見られはじめています。ただ、もう終わりかと思っても、ここからがじつは長いのです。早くから巣作りを始めて何もかも順調であれば、このまますんなりヒナが巣立ちしてそれで終わりです。けれども、渡りがひと月以上遅れるのもいますし、たとえ早く始めたとしても途中で失敗すればまた最初からやり直しです。そんなこんなで、最後の一羽が巣立つのはあとひと月半ばかり先になります。もっとも、それはここ札幌辺りでの話。地域によってはもっとかかる場合もあるようです。東京のほうでは1シーズンに2度子育てすることもあるそうで、9月になってもまだ終わらないのだとか。

ところで、先日、とある新聞にアオサギは繁殖力が旺盛だとのコメントが掲載されていました。たしかに何百という集団でコロニーをつくり、あちこちに大きなヒナがいるのを見ればそういう印象を受けるのも分かります。けれども、実際のところアオサギはそんなネズミ算式に増えるような繁殖力はもっていません。けっこうギリギリのところでなんとかバランスをとっているのが実情です。今回はちょうど巣立ちシーズンでもあるので、巣立ちヒナ数を手がかりにその辺のことを少し考えてみたいと思います。

DSCN0244たとえば、今年、私が観察していた江別コロニーでは、1つがい当たり約2.2羽のヒナが巣立っています。ただ、これは現在までの状況で、このあと巣立つはずのヒナ数は含めていません。一般に遅く繁殖を開始したつがいのヒナ数は減る傾向にありますし、途中で失敗する割合も多くなります。そのことを考慮すると、繁殖期全体の巣立ちヒナ数はこの2.2羽という数値より多少低くなるはずです。例年どおりだと、たぶん2羽台は維持できないのではないかと思います。コロニーを見ると、大きなヒナが3羽、4羽いるところが目立つものですから、どの巣にもたくさんヒナがいるように思えますが、一方で完全に失敗して1羽も育てられないところも2割前後あって、それらの巣も含めて計算すると見た目よりかなり少なくなってしまうのです。見えるものだけ見ても真実は分からないということですね。

さて、この2羽弱の巣立ちヒナ数、これは果たして多いのでしょうか、少ないのでしょうか? ここではその判断基準として、現状の個体数を維持するのに最低限必要な巣立ちヒナ数は何羽なのかという視点で考えてみたいと思います。個体数が増えも減りもしないちょうどバランスのとれるヒナ数を設定し、それを実際の巣立ちヒナ数が上回れば個体群の規模は拡大する可能性があり、下回れば徐々に縮小していく恐れがあると考えるわけです。この値は齢ごとの死亡率を変数にしてシミュレートできます。アオサギの死亡率は思いのほか高く、とくに幼鳥1年目の死亡率は6、7割に達するとされています。3羽巣立っても翌春まで生き延びるのは1羽しかいないのです。一方、成鳥になると生き延びる確率はぐんと増えます。長生きするほど生きるためのスキルが磨かれ死亡率も減っていくわけです。そのようなことで、齢によって異なる死亡率を変数にあれこれ計算した結果、個体数の現状維持に最低限必要なヒナ数は1.84羽になりました。アオサギの死亡率についてはごく限られたデータしか参照にしていませんし、地域差も考慮しなければなりませんが、ともかく一応の目安にはなるでしょう。ちなみに、アメリカのオオアオサギでも1.9羽とこれに近い値が報告されています。

DSCN0405こうしてみると、2羽を切るような巣立ちヒナ数は決して多いわけではなく、ややもすれば現状維持できるラインを下回るレベルにあるといえます。繁殖値としての条件が良好であれば、巣立ちヒナ数が1.84羽を下回ることはないと思いますが、餌資源量が不安定だったり営巣環境に不安定要素があったりすると、この値を大幅に下回る場合も出てきます。たとえば、以前、私が観察していた道東の標津コロニーは4年間調べていて巣立ちヒナ数が1.84羽を上回った年は1度しかありませんでした。信じられないことに、0.32羽という記録的にひどい年もあったのです。その年、1羽も巣立たせることができなかったペアは全体の8割にも達していました。

そんなわけで、アオサギを指して繁殖力旺盛だというのは甚だしい勘違いです。年に一度、十分経験のある親鳥が運に恵まれてようやく2、3羽のヒナを育てられる、そんな世界です。彼らの子育ての様子を見ていると、繁殖力旺盛だなどとは気の毒でとても言えません。もっとも、最初に紹介した1シーズンに2度も子育てするという東京のアオサギ、彼らはちょっと別格かもしれませんが。


子育てライブ中継

ここ札幌にアオサギがやってきたのがまだ雪深い3月半ば。それからひと月半経って、ようやくヒナの生まれる季節となりました。札幌の隣の江別コロニーでもじっくり観察しているとヒナの生まれているサインを僅かながら目にすることができます。今のところ気配のある巣はまだ数えるほどしかありませんが、これから2、3週間はヒナ誕生のラッシュとなりそうです。

とはいえ、ヒナが生まれているかどうかは遠くから見てそうそう分かるものではありません。長時間見続けて、たまたま親鳥がヒナに給餌するのを見かけたとか、巣の側面の隙間から微かに白いものが動くの見えたとか、本当にごく僅かなサインに頼るしかないのが実情ではないでしょうか。もちろん、そんな苦労をして知りえたことだからこそ分かったときの喜びもひとしおだったりするのですが。

けれども、間近ではっきり見られるのならそれに越したことはありません。今回はそんな機会を提供してくれるサイトをいくつかご紹介します。いずれも巣やその近くにビデオカメラを設置し、ネットを通じて四六時中営巣の様子を配信しているサイトです。ただ、残念ながらアオサギを撮したものは無く、全てアメリカのオオアオサギが対象です。

落巣まずひとつめはニューヨークのコーネル大学のプロジェクト。これは当サイトでも何度か紹介したことがありますし、今年も楽しみにされていた方は多いことでしょう。このプロジェクトは一昨年から始まっており、今年で3年目。私もいつ営巣を始めるのかと楽しみにしていたところです。ところが、残念なことにこの時期になっても巣作りが始まっていません。ビデオはまだ回っているものの、数日前にはとうとう巣が落ちてしまいました(右の写真)。というわけで、今シーズンはここでの営巣はもう無いとみてほぼ間違いないと思います。これがライブ中継の難しいところですね。営巣が始まってからビデオを仕掛けるわけにはいきませんから。

マガモ-3ところで、この巣は落ちる前の一時期、マガモ夫婦がしばしば立ち寄っていました。立ち寄るどころではなく、じつは営巣しようとしていたようなのです。とくに雌のほうは巣に穴を開け、せっせと巣材を動かして内部にこじんまりした空間をつくってしまいました。巣の中に巣穴という奇妙な構造物をつくったわけです。そして毎朝やってきては1時間といわず巣作りをしたり中でくつろいだり、そんな日が何日も続きました。そんなこともあって巣の崩壊が早まったのかもしれません。ともあれ、今シーズンはマガモもオオアオサギも営巣しないという寂しい結果になりました。来年、再び営巣するのか、これっきりなのか気になるところです。

なお、同サイトのメイン映像はこれまでは巣の様子を固定カメラで写したものでしたが、営巣の可能性がほぼ無くなったことから、現在は周辺の池の様子を遠隔操作のできるサブカメラに切り替えて撮しています。これはこれでカナダガンやビーバーなどがいて楽しいですよ。【追記:5月6日、昨年営巣していたオオアオサギの雄が巣材を営巣木に運んできたました。運んできた後また持ち去ったということですが、どうやら営巣の可能性はまだ途切れていないようです。】

millbrookさて、次に紹介するのは今シーズンがはじめてのプロジェクト。ニューヨーク、Millbrookでのライブビデオです。こちらはサイト名がMillbrook高校となっていることからも分かるように高校生が授業の一環としてやっています。夢のような授業ですね。実際、高校自体、不思議な雰囲気を醸し出しています。そもそも同サイトにはTrevor動物園のライブビデオと書かれてあって、高校なのか動物園なのかよく分かりません。調べてみるとどうも高校の敷地内に動物園があるようなのです。事実が分かったところで余計混乱するだけですが…。

それはさておき、このライブ映像はカメラの解像度が良いのか視界がとてもクリアです。普段は引いた映像が多いようですが、ズームの遠隔操作ができるようで、親鳥が立ち上がると卵の様子をズームアップしてくれたりします。ヒナが生まれたらその様子を手に取るように見せてくれることでしょう。ただ、このカメラはコーネル大学の場合とは違って営巣木とは別の木に設置されているため、風が吹くと映像がかなり揺れるのが難点と言えば難点です。

気になるヒナですが、1卵目を産卵したのが4月8日で、その後、10日、12日、14日、16日ときれいに1日おきに産んでいます。オオアオサギの場合、産卵期間はアオサギよりやや長くちょうどひと月ぐらいなので、最初の卵にひびが入りはじめるのはこの連休が明けでしょうか。もうすぐですよ。楽しみですね。

horicon3番目に紹介するのはウィスコンシン州でのプロジェクト。ホリコン湿原で営巣するオオアオサギを対象にしたライブ映像です。こちらも今年から始めたプロジェクトで、州の天然資源局が主体となって行っています。ただ、残念ながら画質があまりよくありません。

とはいえ、この映像はこの映像でまた面白いところがあります。じつはこのカメラが撮っているのは手前の巣だけではないのですね。後方の棒のような木に奇妙にくっついたもしゃもしゃ、あれが全部オオアオサギの巣なのです。つまりコロニーをまとめて撮しているというわけです。本来、オオアオサギはコロニーで生活する鳥ですから、こういう状況のほうが自然ですし、運が良ければコロニーならではの行動も観察できそうです。

ところで、このなんとなくシュールに見える光景にはそれなりの理由があります。じつはこのコロニー、天然の樹木ではなくすべて人工営巣木につくられているのですね。もともとは天然の樹林で営巣していたのですが、1990年代の初めに病気や嵐で木が倒壊するなどしてコロニーが衰退、天然資源局がその救済策として用いたのが人工営巣木だったのです。サイトを読むと現在は200ほどのつがいが営巣しているとのことです。

さて、こちらの卵はというと、4月12日、14日、16日の3卵ということですから、Millbrookのヒナとそう違わない時期にヒナが孵りそうですね。両方の巣でヒナの成長に違いはあるのでしょうか? いろいろ興味が尽きません。

なお、ここのコロニーについては4年ほど前に当サイトで紹介したことがあります。人工営巣木に焦点を当てて記事にしていますので興味のある方はぜひ御覧ください。


鳴き真似するサギたち

《注意》この記事はエイプリルフール用に嘘八百を並べたものです。当日、真に受けて読んでいただいた方々に心より感謝申し上げます。

今年もアオサギの子育ての季節がやって来ました。ここ北海道は渡りの真っ最中。早く到着したサギたちの中にはすでに卵を抱いているところもあるようです。ところで、この時期に子育てを始めるのはアオサギばかりではありません。当サイトで何度か紹介したことのあるニューヨークのオオアオサギも少し前から雄が巣に出入りしはじめています。その様子についてはコーネル大学のライブ映像プロジェクトが詳しく伝えていますので興味のある方は御覧になって下さい。営巣状況はコーネル大学のツイッターでも随時報告されています。ただし、ライブ映像のほうはまだ空っぽの巣しか映っていないかもしれません。

DSCN0223さて、つい数日前のことですが、このプロジェクトメンバーの一人からアオサギの声について教えてほしいとのメールを受け取りました。具体的には、アオサギが他の鳥や動物の鳴き声を真似ることがあるかという質問です。彼によると、ライブ映像のデータを整理していたところ、オオアオサギがナキハクチョウやカナダガンの鳴き真似をしているところが録音されていたというのです。じつは、このことは先に紹介した大学のツイッターのほうでは1週間ほど前から話題になっていました。オオアオサギでそうなら近縁のアオサギでも同様の事例があるのではというので私に質問が回ってきたわけです。

これは本当にわくわくする話です。というのも、当サイトの「アオサギの声」のページで紹介しているように、アオサギでもニワトリやブタの声を真似たかと思われるような鳴き声を確認しているからです。以下に上記ページからその2種類の声のみ抜粋して載せておきます。

【ニワトリのような声】 【ブタのような声】

これらの声は営巣中のアオサギのものですが、このコロニーの周辺には数軒の養豚場があり、ブタはもちろん、ニワトリの声もしょっちゅう聞こえてくるようなところなのです。一方、ニューヨークのオオアオサギのほうは、ライブ映像にあるように巣の真下は広い池で、雪解けからしばらくの間はハクチョウやガンの声でずいぶん賑やかになります。つまり、暮らしている環境で普段耳にする声を真似ているということですね。サギの声といっても、例のギャーとかグワッとかいった声ばかりではないのです。アオサギを悪声と非難する人たちもこれで少しは考えを改めるのではないでしょうか。

そもそも、アオサギ、オオアオサギをはじめとしたアオサギ属の鳥は、学習能力の点ではカラス類に匹敵するかもしくはそれ以上だと主張する研究者もいるくらいですから、このぐらいのことは出来て当たり前なのかもしれません。アオサギの場合、声帯の制約があって発声できないだけで、もしオウムのように自由に声を操ることができるのなら、彼らも案外、人の言葉をしゃべれるのかもしれません。

まあ、そこまでは無いとしても、アオサギ属が鳥獣の声を模倣する習性をもつのはまず間違いないと思います。じつはアオサギのボーカルコミュニケーションについては私も以前から興味をもって調べており、文献調査でそうした習性をもつサギが少なくとも1種、過去に存在した形跡を確認しています。このサギは中国東北部から朝鮮半島にかけて生息した Ardea grandis という名のサギで、その学名のとおりかなり大型だったようです。ただ、たいへん残念なことに9世紀前後に絶滅し、現在は標本も残っておらず、古い文献の中にその面影を残すのみとなっています。大きさについては唐代に編纂された『新修本草』にタンチョウと同大かやや大と書かれていますから、現存する最大のサギ類であるオニアオサギ(全長150センチ)と同じくらいのサイズだったのでしょう。このサギ、その大きさもさることながら、やはり何と言っても特徴は他の鳥の鳴き真似ができたこと。先の本草書では、中でもタンチョウの鳴き真似がもっとも似ていると評されています。

タンチョウの鳴き真似については、当時、大陸に渡った日本人も見聞しています。以下の歌は『万葉集』巻十七に載せられているもので、小野朝臣宇曽麻呂という人が新羅に遣わされた折に詠んだとされています。

新羅野の樺の古枝にたづ待つと居りしおほさぎまねび鳴くかも

「たづ」というのは古語で鶴の意、「おほさぎ」というのが上記 Ardea grandis のことです。『新修本草』ではこのサギを「巨鷺」と呼んでいますから、「おほさぎ」は「巨鷺」をそのまま訓読みしたものと思われます。ツルほどもある大きなサギが樹上にとまっている光景は信じがたいものですが、そこでタンチョウの鳴き真似をしているというのはユーモアを通り越してどこかもの悲しくもありますね。もっとも、そうした哀感はこの巨大でちょっとユーモラスなサギがすでにこの世に存在しないことと無縁ではないかもしれません。

ところで、このサギの生息域は上述したように大陸であって日本に飛来することはほとんどなかったようです。ただ、迷鳥として飛来することがどうやらごく稀にはあったようですね。『摂津国風土記』に以下の一文があります。

郡(こほり)の北に山あり。法羅(ほら)の天皇(すめらみこ)、此の山にみ狩したまひし時、大きなる鷺、み前にいで立ち、雜(くさぐさ)の鳥、獣の聲をまねびき。天皇(すめらみこ)、ここに大(いた)く恠異(あや)しと懐(おも)ひて、放免(ゆる)して斬らざりき。故(かれ)、巨鷺(おほさき)山といふ。

説明するまでもなく書かれたとおりの意味です。こんな鳥が目の前に現れたら天皇でなくても怪しいと思うでしょう。普段、サギと言えばシラサギかアオサギかというところに、見たこともないツルほどもあるサギが現れて、しかもいきなりさまざまな鳥や動物の声で鳴き始めるのですから驚かないほうが不思議です。アオサギは後の世で妖怪扱いされたりもしましたが、その元凶はもしかしたらこのへんにあるのかもしれません。なお、巨鷺山というのは現在の六甲山のあたりとされています。ついでに言えば、この巨鷺(おほさき)が大阪の名の由来となったとする説もあるようです。

思いがけず話があちこちに飛んでしまいました。結局のところ、ニューヨークのオオアオサギがハクチョウやガンの鳴き真似をするのは、こんな背景を知っていると大騒ぎするほどのことではないとも言えます。ただ、そうは言っても、ギャッとかゴワッとかいう声だけでなく鳴き真似の声もぜひ聞いてみたいですよね。その辺はサービス精神旺盛なコーネル大学のこと、きちんとネット上で視聴できるようになっています。このページ、昨日まではナキハクチョウとカナダガン、それに私が提供したニワトリとブタの4種類の声だけだったのですが、いま見てみると、オランダの動物園で飼育されているアオサギの声が追加されていました。このアオサギ、どうやら百獣の王になったつもりのようです。これはまたそうとうなインパクト! 必見です。 ⇒ 「Funny Voices of Herons


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