アオサギを議論するページ

ヒナ誕生!

生まれてましたよ。例年より1週間ばかり遅め、それでもちゃんと生まれてました。

早朝のコロニーは、辺りが霜でうっすら白くなるような冷え込みでしたが、親鳥のおなかの下は暖かいのでしょうね。アオサギが産卵してヒナが孵化するまでの日数は25〜28日。外は寒くても日数が経てばちゃんとヒナが生まれます。

今朝、江別のコロニーでヒナが確認できたのは2巣。ただし、ヒナが見えたといっても、生まれたばかりの小さな小さなヒナです。巣材と巣材の隙間に灰色の産毛が見え隠れするのがようやく見られるていど。そこにヒナがいることを確信して見ないと、それがヒナだとはまず気付かなかったでしょう。

幸いなことに、ヒナを直接見つけられなくてもヒナがいることを知る術はあります。この時期、ヒナが生まれると、親鳥の行動にそれまで見られなかったパターンが加わるのです。それはまず親鳥が巣の中に首を突っ込むことから始まります。じつはこれ、ヒナに餌を吐き戻しているところなのですが、親鳥は巣の修繕をするときにも同じように屈むため、注意深く見ていないと給餌だということを見逃してしまいます。ただ、巣の修繕の時と違うのはじっとその姿勢で動かないこと。同じ姿勢で動かなければ給餌ということになります。親鳥はその姿勢をしばらく続けた後、首を上げてくちばしを小さく開いたり閉じたりしながら何かを咀嚼するようにもぐもぐやります。そして、もう一度首を巣に突っ込み、拾い上げた餌をふたたび飲み込みます。これが小さなヒナがいる親鳥の一連の給餌行動です。この行動が見られれば、その巣にはヒナがいると思って間違いありません。

国内でも暖かい地方ではヒナもすでに大きくなっているようですが、ここ北海道はこれからです。これからちょうど連休にかけて、多くのコロニーがヒナの誕生ラッシュになるのではないでしょうか。生まれたばかりのヒナたちがびっくりしないよう、そっと見守ってあげたいものです。

なぜ早く営巣を始めるのか?

もうずいぶん前からこのことが気になっています。そもそもは、札幌周辺で越冬個体が見られはじめ、なぜ敢えて条件の悪いところで冬を越さなければならないのだろうと不思議に思ったのが最初です。もっとも、人の目には過酷に映っても、サギたちは意外と十分に餌を獲っているのかもしれません。それならわざわざ苦労して渡りをしなくてもいいのではないかと。あるいは、渡る元気もない個体が仕方なく留まっているということも考えられます。これはこれで謎なのですが、今回はその話ではなく、営巣の開始時期が違うことによって彼らにどんな利益不利益があるかという話。つまり、越冬個体は早い時期に繁殖を始めることで何か得があるから越冬するのではないかということです。過酷な条件で冬を過ごしても、早く繁殖活動を始めることによるメリットが冬のリスクを上回るのであれば渡らないという選択肢も納得できます。

さて、ここからが本題。サギたちは早く営巣を開始することでどのような利益を得るのでしょうか? このことを考える上でまず頭に入れておきたいのは彼らの繁殖形態についてです。アオサギの繁殖の特徴は何といっても集団繁殖を行うという点。ひとつがいだけで単独に営巣する鳥類とは異なり、営巣活動のひとつひとつが何らかの形でつがい以外の個体からの影響を受けることになります。その影響は個々のつがいにとって良いほうに働くこともあれば悪いほうに働くこともあります。コロニーが成り立っているということを考えれば、全体としては悪い影響より良い影響のほうが上回っているということだと思いますが、個々のつがいを見れば、集団繁殖から受けるメリット、デメリットの程度はまちまちです。そして、その程度の差を決定的にするのが繁殖開始時期の違いだと思うのです。

ということで、最初に戻って、早いと何が得なのかという話です。これについては考えられることがいくつかあります。まず、早くコロニーに飛来すれば巣をつくる場所は選り取り見取りです。早ければ早いほど自分の好きな場所に巣をかけられるわけです。巣の位置というのは意外と重要で、やはり見晴らしの良いところのほうが好まれます。見晴らしと言っても、周辺の景色がよく見えるというのではなく、それも重要ですが、コロニー全体の状況がよく分かる位置にあることのほうがより重要なようです。そのため、巣はコロニーの真ん中のほうから埋まっていくのが普通です。

コロニー全体の状況を見張らせる場所が便利な理由はコロニーの本質に関わる問題なのでまた改めて書きますが、もっと狭い範囲の巣の位置関係が問題になってくることもあります。お隣さん同士の関係では他より低い位置にある巣はどうも分が悪いようです。たとえば、アオサギの場合、強制交尾がときどき見られますが、これはたいてい近場にいる個体間で行われます。このとき、強制交尾をしかける雄の巣は相手の巣より高い位置にあるのが普通です。雄のほうにしてみれば、相手の巣の状況を事前に十分確認できるという利点があるのでしょう。逆の位置関係ではこうはなりません。結果的に、低いところに巣をつくったペアは繁殖の目的を十分に達っせられなくなってしまうのです。雌の場合はいずれにしても自分の遺伝子を残せるのでまだいいのですが、雄は生まれたヒナが自分の子かどうか分かりません。こうした後々のデメリットを避けるためには、やはり早くコロニーに入って有利な場所が選ぶことが重要なのです。

巣に関してはもうひとつ問題があります。アオサギの巣は小枝でつくられているので、冬のあいだに巣が壊れていればつくり直さなければなりません。また、大幅に壊れていなくても全く修繕しないということはないでしょう。多かれ少なかれどこかから枝をとってきて巣をリフォームする必要があります。また、古巣があれば必ずそれを使うかというとそういうわけではなく、誰も使っていない古巣があるのにわざわざすぐ横に一から作りはじめる場合もよくあります。そこで問題になるのが巣材の調達です。この場合も、早くコロニーに来たほうが巣材をふんだんに獲得できて有利なのです。とくに雪国の場合は、営巣の初期は地面はまだ雪に覆われていますから、地上に落ちている小枝を拾うわけにはいきません。巣材はもっぱら古巣から引き抜いてくることになります。早い時期にはまだ多くの古巣が残っているのでいくらでも小枝を得ることができます。ところが、遅く来たサギたちには残念ながらこの恩恵はありません。古巣も軒並み埋まってしまい、簡単に得られる巣材はもうありません。地上もまだ一面雪で覆われて…、ということになればこれはもう悲惨ですが、さすがにその頃には雪も解け、地面に降りれば小枝を探すことはできます。ただ、近くの古巣から簡単に集められる巣材に比べれば労力が要るのは事実。それに、自分の巣を空けて遠くまで時間をかけて探しに出るわけですから、その間にペアの雌が上で書いたような不届き者に襲われる恐れも出てきます。そんなことで、遅く来ると何かにつけ悪いことばかりなのです。

とはいえ、これはまだまだ営巣の初期段階に限った話。早い者と遅い者の違いはこれだけではありません。ヒナが生まれた後もその影響は続いていきます。その話はまた別の機会に。

今年の営巣数は?

おととい、少し遅めの春の嵐に見舞われた札幌ですが、この先はもう雪マークがつくことは無さそうですね。これからは着実に季節が進んでくことでしょう。

札幌にほど近い江別のコロニーでは、すでに大部分のアオサギが卵を抱いています。これから巣づくりというところもまだ多少はありますが、もう4月も半ばを過ぎましたから全体の9割方は揃ったのではと思います。営巣スケジュールの進み具合としてはほぼ例年並かなというところです。

ところが、今年は巣の数、アオサギの数がかなり少ないのです。ここ数年と比較すると2、3割減といったところでしょうか。じつは、これは江別コロニーだけの現象ではないようで、道北のほうでも今年は少ないといったところがいくつかあるようです。ただ、道北は営巣が始まって間もないため、これから増える可能性はあります。ちなみに、道北の幌加内にあるコロニーは4月7日頃が初飛来だったそうです。九州あたりのコロニーではすでにヒナが大きくなっているところもあるようですが、北海道はまだまだこれからですね。

ところで、アオサギが少ない原因、これは冬の生存率が例年にくらべ悪かったのではないかと思います。一般に、アオサギの最大の死亡要因は冬季間の餌不足による餓死だそうですから。右に挙げたグラフはイングランドとウェールズのアオサギの巣数の年変化(1928年ー1970年)を示したもの(Stafford 1971)ですが、厳しい冬(矢印の部分)を経験すると個体数がぐっと減っているのが分かるかと思います。

今年の冬はアオサギにとって厳しかったのでしょうか? 私の印象では特別厳しい冬だったようには思われないのですが…。皆さんのところのアオサギは今年も例年どおり来てくれたでしょうか?

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