アオサギを議論するページ

鷺の社

今月上旬、愛媛の神社2社を訪ねてきました。もちろん、ここに書く内容ですからどちらもサギに関係した神社です。

ひとつめは今治市にある三嶋神社。この神社のことはこちらのブログで初めて知りました。何を隠そう、ここには鷺大明神が祀られているのです。神社の様子は同ブログで詳しく紹介されているので御覧になってください。田園地帯にあって、鬱蒼とした森に木漏れ日がきれいな神社でした。

三嶋神社-1この神社の祭神は大山津見命です。そもそも三嶋神社というのは名前から連想されるとおり三島水軍に縁の深い神社なのだそうです。そして、水軍の神さまというと、瀬戸内のほうでは大山祇神になるのですね。何と言っても海の神さまですから。一方、鷺大明神はというと、ひっそりした神社のさらに片隅で小さな祠に鎮座していました。「鷺大明神」の名もしっかり読み取れます。

三嶋神社-2もっとも、鷺大明神はここだけの神さまではありません。もともとは出雲のほうの神さまで、あの辺りではいくつもの神社で祀られているそうです。そこから各地に分祀されていったのでしょう。中国から四国へ渡るとき水軍が関係していたのかどうか、そうでなくても鷺の神さまですから瀬戸内の海ぐらいひとっ飛びでしょうけど。

ところで、水軍といえば、元寇で名を馳せた伊予水軍の河野道有に次のような逸話が残っています。

昔、弘安四年の蒙古襲来の時、河野道有は本社に參詣して祈願を籠め、筑前博多に向かつたのに、不思議や、神の使「白鷺」の案内があつて、遂に大捷を博したことは有名な話である。「今治郷土読本」(昭和12年刊行)

ここでは鷺大明神ではなく神の使いになっていますね。そして、注目すべきはその鷺がシラサギだということです。おそらく鷺大明神もシラサギだったのでしょう。昔は単に鷺といえばシラサギを指していましたから。

宮鷺神社ところが、神社に縁のある鷺はシラサギだけかというとそうではないのですね。それが今回訪れたもうひとつの神社です。社名を宮鷺神社といいます。こちらは八幡浜市の山間部、細いくねくね道の峠の先にありました。小さな集落の小さな鳥居をくぐり、急な石段を登っていくと、ここもまた鬱蒼とした森。樹上にはアオサギの巣が…、あるはずもなく、ただ森閑とした森の中に神社がぽつんとありました。小さいけれどこれが本殿です。どこかに鷺の名前でもないかなと探しましたが、一向にそれらしいものは見当たりませんでした。

じつは、宮鷺神社というのは明治の末に別の神社と合祀されたときに付けられた名前で、それまでは青鷺神社と呼ばれていたのです。正真正銘、アオサギです。なぜアオサギなのかと言うと、その昔、この集落で疱瘡(天然痘)に罹って死んだアオサギを祀ったからなのだそうです。昔の人々にとって、疱瘡はそのためにお宮をつくらないといけないほど恐ろしい病気だったということですね。もちろん実際にアオサギが疱瘡に罹ることはありませんが、この場合、どうしてもアオサギでなければならないのです。もっともシラサギでも構いません。けれども他の動物ではなく必ずサギでなければならないのです。なぜなら、鷺大明神こそが疱瘡神だからなのです。

出雲の国から瀬戸内を渡り、今治、八幡浜へとあてどない旅をつづけた鷺大明神。天然痘が根絶された今となっては、もはや舞い降りるべき土地すら無いのかもしれません。大任を背負い人々から絶大な信仰を集めたのも今は昔。木漏れ日の森に忘れ去られたように佇んでいた祠やお堂を思うと、やはり一抹の寂しさを覚えずにはいられません。


子育てライブ中継

ここ札幌にアオサギがやってきたのがまだ雪深い3月半ば。それからひと月半経って、ようやくヒナの生まれる季節となりました。札幌の隣の江別コロニーでもじっくり観察しているとヒナの生まれているサインを僅かながら目にすることができます。今のところ気配のある巣はまだ数えるほどしかありませんが、これから2、3週間はヒナ誕生のラッシュとなりそうです。

とはいえ、ヒナが生まれているかどうかは遠くから見てそうそう分かるものではありません。長時間見続けて、たまたま親鳥がヒナに給餌するのを見かけたとか、巣の側面の隙間から微かに白いものが動くの見えたとか、本当にごく僅かなサインに頼るしかないのが実情ではないでしょうか。もちろん、そんな苦労をして知りえたことだからこそ分かったときの喜びもひとしおだったりするのですが。

けれども、間近ではっきり見られるのならそれに越したことはありません。今回はそんな機会を提供してくれるサイトをいくつかご紹介します。いずれも巣やその近くにビデオカメラを設置し、ネットを通じて四六時中営巣の様子を配信しているサイトです。ただ、残念ながらアオサギを撮したものは無く、全てアメリカのオオアオサギが対象です。

落巣まずひとつめはニューヨークのコーネル大学のプロジェクト。これは当サイトでも何度か紹介したことがありますし、今年も楽しみにされていた方は多いことでしょう。このプロジェクトは一昨年から始まっており、今年で3年目。私もいつ営巣を始めるのかと楽しみにしていたところです。ところが、残念なことにこの時期になっても巣作りが始まっていません。ビデオはまだ回っているものの、数日前にはとうとう巣が落ちてしまいました(右の写真)。というわけで、今シーズンはここでの営巣はもう無いとみてほぼ間違いないと思います。これがライブ中継の難しいところですね。営巣が始まってからビデオを仕掛けるわけにはいきませんから。

マガモ-3ところで、この巣は落ちる前の一時期、マガモ夫婦がしばしば立ち寄っていました。立ち寄るどころではなく、じつは営巣しようとしていたようなのです。とくに雌のほうは巣に穴を開け、せっせと巣材を動かして内部にこじんまりした空間をつくってしまいました。巣の中に巣穴という奇妙な構造物をつくったわけです。そして毎朝やってきては1時間といわず巣作りをしたり中でくつろいだり、そんな日が何日も続きました。そんなこともあって巣の崩壊が早まったのかもしれません。ともあれ、今シーズンはマガモもオオアオサギも営巣しないという寂しい結果になりました。来年、再び営巣するのか、これっきりなのか気になるところです。

なお、同サイトのメイン映像はこれまでは巣の様子を固定カメラで写したものでしたが、営巣の可能性がほぼ無くなったことから、現在は周辺の池の様子を遠隔操作のできるサブカメラに切り替えて撮しています。これはこれでカナダガンやビーバーなどがいて楽しいですよ。【追記:5月6日、昨年営巣していたオオアオサギの雄が巣材を営巣木に運んできたました。運んできた後また持ち去ったということですが、どうやら営巣の可能性はまだ途切れていないようです。】

millbrookさて、次に紹介するのは今シーズンがはじめてのプロジェクト。ニューヨーク、Millbrookでのライブビデオです。こちらはサイト名がMillbrook高校となっていることからも分かるように高校生が授業の一環としてやっています。夢のような授業ですね。実際、高校自体、不思議な雰囲気を醸し出しています。そもそも同サイトにはTrevor動物園のライブビデオと書かれてあって、高校なのか動物園なのかよく分かりません。調べてみるとどうも高校の敷地内に動物園があるようなのです。事実が分かったところで余計混乱するだけですが…。

それはさておき、このライブ映像はカメラの解像度が良いのか視界がとてもクリアです。普段は引いた映像が多いようですが、ズームの遠隔操作ができるようで、親鳥が立ち上がると卵の様子をズームアップしてくれたりします。ヒナが生まれたらその様子を手に取るように見せてくれることでしょう。ただ、このカメラはコーネル大学の場合とは違って営巣木とは別の木に設置されているため、風が吹くと映像がかなり揺れるのが難点と言えば難点です。

気になるヒナですが、1卵目を産卵したのが4月8日で、その後、10日、12日、14日、16日ときれいに1日おきに産んでいます。オオアオサギの場合、産卵期間はアオサギよりやや長くちょうどひと月ぐらいなので、最初の卵にひびが入りはじめるのはこの連休が明けでしょうか。もうすぐですよ。楽しみですね。

horicon3番目に紹介するのはウィスコンシン州でのプロジェクト。ホリコン湿原で営巣するオオアオサギを対象にしたライブ映像です。こちらも今年から始めたプロジェクトで、州の天然資源局が主体となって行っています。ただ、残念ながら画質があまりよくありません。

とはいえ、この映像はこの映像でまた面白いところがあります。じつはこのカメラが撮っているのは手前の巣だけではないのですね。後方の棒のような木に奇妙にくっついたもしゃもしゃ、あれが全部オオアオサギの巣なのです。つまりコロニーをまとめて撮しているというわけです。本来、オオアオサギはコロニーで生活する鳥ですから、こういう状況のほうが自然ですし、運が良ければコロニーならではの行動も観察できそうです。

ところで、このなんとなくシュールに見える光景にはそれなりの理由があります。じつはこのコロニー、天然の樹木ではなくすべて人工営巣木につくられているのですね。もともとは天然の樹林で営巣していたのですが、1990年代の初めに病気や嵐で木が倒壊するなどしてコロニーが衰退、天然資源局がその救済策として用いたのが人工営巣木だったのです。サイトを読むと現在は200ほどのつがいが営巣しているとのことです。

さて、こちらの卵はというと、4月12日、14日、16日の3卵ということですから、Millbrookのヒナとそう違わない時期にヒナが孵りそうですね。両方の巣でヒナの成長に違いはあるのでしょうか? いろいろ興味が尽きません。

なお、ここのコロニーについては4年ほど前に当サイトで紹介したことがあります。人工営巣木に焦点を当てて記事にしていますので興味のある方はぜひ御覧ください。


鳴き真似するサギたち

《注意》この記事はエイプリルフール用に嘘八百を並べたものです。当日、真に受けて読んでいただいた方々に心より感謝申し上げます。

今年もアオサギの子育ての季節がやって来ました。ここ北海道は渡りの真っ最中。早く到着したサギたちの中にはすでに卵を抱いているところもあるようです。ところで、この時期に子育てを始めるのはアオサギばかりではありません。当サイトで何度か紹介したことのあるニューヨークのオオアオサギも少し前から雄が巣に出入りしはじめています。その様子についてはコーネル大学のライブ映像プロジェクトが詳しく伝えていますので興味のある方は御覧になって下さい。営巣状況はコーネル大学のツイッターでも随時報告されています。ただし、ライブ映像のほうはまだ空っぽの巣しか映っていないかもしれません。

DSCN0223さて、つい数日前のことですが、このプロジェクトメンバーの一人からアオサギの声について教えてほしいとのメールを受け取りました。具体的には、アオサギが他の鳥や動物の鳴き声を真似ることがあるかという質問です。彼によると、ライブ映像のデータを整理していたところ、オオアオサギがナキハクチョウやカナダガンの鳴き真似をしているところが録音されていたというのです。じつは、このことは先に紹介した大学のツイッターのほうでは1週間ほど前から話題になっていました。オオアオサギでそうなら近縁のアオサギでも同様の事例があるのではというので私に質問が回ってきたわけです。

これは本当にわくわくする話です。というのも、当サイトの「アオサギの声」のページで紹介しているように、アオサギでもニワトリやブタの声を真似たかと思われるような鳴き声を確認しているからです。以下に上記ページからその2種類の声のみ抜粋して載せておきます。

【ニワトリのような声】 【ブタのような声】

これらの声は営巣中のアオサギのものですが、このコロニーの周辺には数軒の養豚場があり、ブタはもちろん、ニワトリの声もしょっちゅう聞こえてくるようなところなのです。一方、ニューヨークのオオアオサギのほうは、ライブ映像にあるように巣の真下は広い池で、雪解けからしばらくの間はハクチョウやガンの声でずいぶん賑やかになります。つまり、暮らしている環境で普段耳にする声を真似ているということですね。サギの声といっても、例のギャーとかグワッとかいった声ばかりではないのです。アオサギを悪声と非難する人たちもこれで少しは考えを改めるのではないでしょうか。

そもそも、アオサギ、オオアオサギをはじめとしたアオサギ属の鳥は、学習能力の点ではカラス類に匹敵するかもしくはそれ以上だと主張する研究者もいるくらいですから、このぐらいのことは出来て当たり前なのかもしれません。アオサギの場合、声帯の制約があって発声できないだけで、もしオウムのように自由に声を操ることができるのなら、彼らも案外、人の言葉をしゃべれるのかもしれません。

まあ、そこまでは無いとしても、アオサギ属が鳥獣の声を模倣する習性をもつのはまず間違いないと思います。じつはアオサギのボーカルコミュニケーションについては私も以前から興味をもって調べており、文献調査でそうした習性をもつサギが少なくとも1種、過去に存在した形跡を確認しています。このサギは中国東北部から朝鮮半島にかけて生息した Ardea grandis という名のサギで、その学名のとおりかなり大型だったようです。ただ、たいへん残念なことに9世紀前後に絶滅し、現在は標本も残っておらず、古い文献の中にその面影を残すのみとなっています。大きさについては唐代に編纂された『新修本草』にタンチョウと同大かやや大と書かれていますから、現存する最大のサギ類であるオニアオサギ(全長150センチ)と同じくらいのサイズだったのでしょう。このサギ、その大きさもさることながら、やはり何と言っても特徴は他の鳥の鳴き真似ができたこと。先の本草書では、中でもタンチョウの鳴き真似がもっとも似ていると評されています。

タンチョウの鳴き真似については、当時、大陸に渡った日本人も見聞しています。以下の歌は『万葉集』巻十七に載せられているもので、小野朝臣宇曽麻呂という人が新羅に遣わされた折に詠んだとされています。

新羅野の樺の古枝にたづ待つと居りしおほさぎまねび鳴くかも

「たづ」というのは古語で鶴の意、「おほさぎ」というのが上記 Ardea grandis のことです。『新修本草』ではこのサギを「巨鷺」と呼んでいますから、「おほさぎ」は「巨鷺」をそのまま訓読みしたものと思われます。ツルほどもある大きなサギが樹上にとまっている光景は信じがたいものですが、そこでタンチョウの鳴き真似をしているというのはユーモアを通り越してどこかもの悲しくもありますね。もっとも、そうした哀感はこの巨大でちょっとユーモラスなサギがすでにこの世に存在しないことと無縁ではないかもしれません。

ところで、このサギの生息域は上述したように大陸であって日本に飛来することはほとんどなかったようです。ただ、迷鳥として飛来することがどうやらごく稀にはあったようですね。『摂津国風土記』に以下の一文があります。

郡(こほり)の北に山あり。法羅(ほら)の天皇(すめらみこ)、此の山にみ狩したまひし時、大きなる鷺、み前にいで立ち、雜(くさぐさ)の鳥、獣の聲をまねびき。天皇(すめらみこ)、ここに大(いた)く恠異(あや)しと懐(おも)ひて、放免(ゆる)して斬らざりき。故(かれ)、巨鷺(おほさき)山といふ。

説明するまでもなく書かれたとおりの意味です。こんな鳥が目の前に現れたら天皇でなくても怪しいと思うでしょう。普段、サギと言えばシラサギかアオサギかというところに、見たこともないツルほどもあるサギが現れて、しかもいきなりさまざまな鳥や動物の声で鳴き始めるのですから驚かないほうが不思議です。アオサギは後の世で妖怪扱いされたりもしましたが、その元凶はもしかしたらこのへんにあるのかもしれません。なお、巨鷺山というのは現在の六甲山のあたりとされています。ついでに言えば、この巨鷺(おほさき)が大阪の名の由来となったとする説もあるようです。

思いがけず話があちこちに飛んでしまいました。結局のところ、ニューヨークのオオアオサギがハクチョウやガンの鳴き真似をするのは、こんな背景を知っていると大騒ぎするほどのことではないとも言えます。ただ、そうは言っても、ギャッとかゴワッとかいう声だけでなく鳴き真似の声もぜひ聞いてみたいですよね。その辺はサービス精神旺盛なコーネル大学のこと、きちんとネット上で視聴できるようになっています。このページ、昨日まではナキハクチョウとカナダガン、それに私が提供したニワトリとブタの4種類の声だけだったのですが、いま見てみると、オランダの動物園で飼育されているアオサギの声が追加されていました。このアオサギ、どうやら百獣の王になったつもりのようです。これはまたそうとうなインパクト! 必見です。 ⇒ 「Funny Voices of Herons


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