アオサギを議論するページ

越冬地で起きていること

先日、台湾のChangさんという方から同国でのアオサギの生息状況について教えていただきました。台湾ではアオサギは冬鳥で、9月下旬頃からぱらぱらと渡ってくるようです。東アジアのアオサギの渡りルートについては何ほども分かっていませんが、山口県から南ベトナムに向かったアオサギもいましたから、日本を発って台湾を経由したりそのままそこに留まったりするアオサギも多いのでしょう。今も続々と渡りつつあるはずです。

そして、春になると逆向きの移動が起こり皆一斉に引き揚げて来る、となりそうですが、ところが実際はそう単純ではないようなのですね。Changさんによると、翌春、成鳥は渡っていくものの、前年生まれの幼鳥はそのまま台湾に留まるのだそうです。もしこれが越冬地全体の傾向だとすればとても興味深いですね。越冬地ということですから何も海外には限りません。国内でも同じ状況が見られるかもしれません。

たとえば、ここ北海道のアオサギは基本的に夏鳥ですから、彼らがこちらで過ごすのは繁殖シーズンだけです。もし越冬地に残るのが幼鳥の一般的な行動だとすると、繁殖期には北海道には幼鳥がいないことになります。そして、実際、いないのです。全くいないわけではありませんが、成鳥に比べれば無視できるほど少ないのです。考えてみれば、アオサギが繁殖を開始するのは2年目からなので、生まれた翌年に繁殖地に来てもとくにやることもないのですね。たまにコロニーを訪れてぶらぶらしている幼鳥を見かけますが、巣をのぞき込んでヒナたちに怒られるのが関の山です。わざわざ時間と労力をかけて繁殖地に戻ってくるより、餌さえ獲れるのであれば越冬地で気ままに過ごすことのほうが、行動としてはむしろ適応的といえるかもしれません。

今のところ確定的なデータがあるわけではなく多くは推測にすぎませんが、今後、ぜひとも明らかにしていきたいテーマですね。1年目幼鳥が越冬地に残るケースや繁殖地での幼鳥の割合が異常に少ないケースなど、もしご存知でしたら教えていただけると大変有り難いです。

さて、越冬地の話題が出たついでに、国内での越冬状況について少し見てみたいと思います。こちらのページは環境省が調査したデータを私が整理し直したもので、国内の主要な水辺でのアオサギ個体数の季節変化が表示されています。この資料、説明には書いていませんが、どうも鳥インフルエンザ対策の一環として調査されたもののようで、生息調査としての厳密性はそもそも重視されていないようです。そのせいか、観察場所によりデータのとられ方が区々で、同じ観察地点でも年度によって調査手法が異なっていたりします。ですので、単純にグラフを見比べてあれこれ検討するのは危険です。その点に注意して御覧いただければと思います。なお、環境省のサイトに表示されている昨秋から今春までのデータについては、現在、暫定値のため今回のグラフには含めていません。

ということで、いろいろ見ているわけですが、それぞれ地域によって特徴が出ていて面白いですね。北海道のほうはさすがに真冬はいなくなりますが、函館辺りになると冬じゅう残っているようです。本州の日本海側も数は少ないもののまったくいなくはならないようで。一方、瀬戸内周辺にはかなり集まっているようですね。宮崎県の調整池などは真冬が一番個体数が多くなっているように見えます。これぞ越冬地というところでしょうか。沖縄の漫湖は春の渡り時期だけ個体数が増える年があります。これは渡りの中継地として利用されているということなのでしょう。ただ、他の年は冬中いるようで、同じ場所でも年によって利用のされ方が変わるようです。冬のアオサギ、知らないことがまだまだたくさんありそうですね。

ついさっき、札幌の自宅上空をアオサギがひと声鳴いて通り過ぎていきました。夜空を南へ、渡りでしょうか。明日から11月、アオサギの渡りもそろそろ終盤です。

アオサギの推定個体数

先日、発売されたBIRDERの記事に、アオサギの個体数を全国で約3万羽と見積もった一文がありました。こうして具体的に数値を示されると、それだけでインパクトがあるというかいろいろ考えてしまうものですね。じつは、国内のアオサギの生息状況については全国的な調査どころか地域レベルの調査さえごく僅かしか行われていないのが実情で、BIRDERに示された推定値も妥当なものかどうかは誰にも分かりません。ただ、大雑把な推定値であるにせよ、この数値は実際の個体数からそれほど大きくはかけ離れてないように私には思えます。少なくとも数千ないし数十万という単位ではなく、数万のオーダーであることはまず間違いないのではないかと。そこで今回はこのアオサギの個体数について私も独自に推定してみたいと思います。

estimated population地域別に、まずは北のほうから。北海道では2000年代前半に北海道アオサギ研究会が全道をくまなく調査しており、道内の生息状況は比較的よく分かっています。その報告書によると、当時の営巣数は約4,500巣と見積もられています。アオサギは一夫一妻ですからこれを単純に倍にして約9,000羽の成鳥がいることになります。その後は同水準か多少増えたかなというていどなので、現在はちょうど10,000羽ぐらいでしょうか。繁殖に参加しない幼鳥を入れると実際の個体数はもう少し多くなりますが、今回はとりあえず繁殖している成鳥だけで考えることにします。

北海道は面積が広い上に彼らの生息に適した環境も多いため、単独の都道府県としてはアオサギの個体数はもっとも多いと思われます。一方、密度から言えばもっと高密度にアオサギが暮らしている県があります。たとえば福井県。じつは日本海側は昔からアオサギが多いのです。福井県では日本野鳥の会福井県のサギ類調査グループが、毎年、県内の全コロニーをモニタリングしています。その報告によると、2011年は県全体で628巣が確認されたそうです。個体数にして1,256羽。隣の石川や富山も同じような生息状況だとみなすと、北陸全体で3,500羽といったところでしょうか。

同じように、長野県では県の環境保全研究所が、2007年に全県を網羅した調査を行っています。この調査では718巣が確認されています。これも単純に倍にして1,436羽。隣の新潟県も日本海側ということで個体数は多いと思われますから、甲信越地方全体では3,500羽ぐらいかなと思います。

一方、太平洋側の地域ですが、こちらはあまりいないのかなと思いきや最近はそうでもないようですね。たとえば茨城県。ここは筑波大学などを中心に昔からサギ類の調査が熱心に行われてきた地域です。彼らが2000年代初めに県中南部地域で行った生息状況調査のごく簡単な結果がこちらで見られます。これによると、茨城県の中南部地域では、サギ類のコロニーの中でアオサギが占める割合はたった4%に過ぎないことが分かります。個体数にするとおよそ770羽ほどになります。他の地域は茨城の例を参考に、地形や餌場のことなどを考慮しつつ半ば直感で数値を当てはめていくしかありません。ということで、関東全域では3,000羽ほどになるのではと推測します。

ところで、上記資料にあるように、筑波の人たちは滋賀県にも出かけて同様の調査を行っています。こちらはアオサギの割合が4割と格段に高くなっています。個体数も滋賀県全体でおよそ2,550羽。先ほど福井県のアオサギ密度が高いと書きましたが、計算してみると滋賀県はその2倍以上の密度になるようです。広い水辺のある環境は水鳥にとってはやはり魅力なのですね。

近畿では他に京都でもコロニー単位で個体数が記録されています。これは京都府の佐々木さんが調べられたもので、こちら(PDF)で結果を見ることができます。1997年の調査とややデータが古いのですが、当時の個体数はおよそ870羽ほどになるようです。

大阪のほうでも記録があります。これは大阪市立自然史博物館の和田岳さんによって1990年代後半に調査されたもので、その結果は大阪府下のサギの集団繁殖地のページにまとめられています。それによると、当時の営巣数は200数十巣ほどになります。その後の生息状況については分かりませんが、当時から変わっていないと考えると個体数にして500羽ていど。近畿地方全体では、全てひっくるめておよそ5,000羽と予想しました。

広域での調査結果をいくつか挙げてきましたが、こうした調査が行われることは稀で、私も上で紹介した調査以外はほとんど知りません。もし地域のアオサギ個体数に関するまとまった資料をご存知の方がおられましたら御教示いただければ幸いです。そのようなわけで、以下の地域については具体的なデータが無く、ますます心許ない推測しかできません。まったくいい加減で申し訳ないのですが、そこのところは目を瞑ってもらって、今回は無理矢理にでも数値を出してみたいと思います。

まずは東北地方。ここは太平洋側にはそれほど多くないと思われますが、面積が面積ですから全体で6,000羽ていどになるのではないでしょうか。東海は関東と同じような状況だとみなして3,000羽。西日本の状況についてはさらに根拠がありませんが、他の地域の個体数と同程度ではあっても多いということはなさそうです。中国4,500羽、四国1,500羽、九州3,000羽ぐらいかと。沖縄は繁殖していないはずですから生息しているとしても僅かでしょう。

そのようなことで、ここで見積もった数値を全部足すと43,000羽になりました。これに繁殖に参加していない幼鳥を加えて50,000羽ぐらいにはなるかなと。前後2万ぐらいの誤差はあるかもしれませんが、他に全国のアオサギ個体数の推定値が無いので、大雑把な数値でも何も無いよりはましでしょう。

さて、国内のアオサギの5万という数、多いと思われたでしょうか少ないと思われたでしょうか? 何を基準に置くかで感じ方はずいぶん変わってくると思いますが、たとえばマガンの国内個体数は冬だけとはいえ15万を超えています。アオサギが5万としてその3倍もいるわけです。そして、片方は天然記念物であり、もう片方は有害鳥獣なのです。これはアオサギにしてみれば理不尽なことこの上ないですね。もちろん、両種の生態も人との関わり方もまるで異なるので個体数だけで比較するのは無謀ですが、現実を客観視する上でこうした比較はまったく意味の無いことではないような気がします。

あるいは人と比べればどうでしょうか? 我々人間の多さに比べれば5万など吹けば飛ぶような少なさです。国内に限って言えば、ヒト2,500人に対してアオサギ1羽といったところです。アオサギが多いか少ないかは別にしても人が多すぎるのは間違いないでしょう。人とアオサギとの間には何かとトラブルがありますが、そもそも人がこの地上に無闇に増えすぎたことがあらゆる問題の根源。アオサギの行為をあれこれ言う前に、まずはそのことを自分たちの原罪として常に認識しておかなければと思います。

春の訪れは予定どおり

DSCN0023札幌は今日も雪でした。3月にまだ130センチも積雪があるのは67年ぶりだそうで。けれども、アオサギはそんなことにはおかまいなく、今年も予定どおりやって来ました。もっとも、来てみて少し早すぎたかなと後悔しているかもしれませんが。

ここ札幌周辺のコロニーでは、例年3月5日を過ぎれば、いつアオサギが来てもおかしくありません。遅い年でも3月半ばまでには必ず第一陣の渡りがあります。そして、今年はというと、おとといの3月8日に初飛来があったようです。札幌の平岡コロニーに11羽、そこから14キロほど離れた江別の冬ねぐらに16羽が今年初めて確認されました。じつは、江別のほうは10羽ほどが越冬していたので、16羽のうち何羽かは越冬アオサギが含まれているはずです。ただ、冬にいるアオサギの数よりも増えたことは明らかで、南からの渡りがあったことは間違いなさそうです。

DSCN0010この時期、アオサギは少数のグループで渡って来ます。札幌周辺では、最初に飛来するのは十数羽ていど。たとえば江別のコロニーの場合、最盛期には親鳥だけで350羽ほどになりますから、十数羽というのはほんの一握りのサギたちです。そうとう気合いの入った猛者たちなのでしょう。けれども、早く渡って来たからといって、すぐに巣作りに取りかかれる訳ではなく、天気が荒れているうちは近くの水辺で徒に時間を潰すしかありません。そもそも巣はまだ雪帽子を被っていますし、それが融けるまでは使い物になりません。たまたま穏やかで暖かな日が春まで続けば、他のサギたちに先駆けて巣作りをはじめるメリットが得られますが、そうでなければ、ただの骨折り損の草臥れ儲けです。

今年の先発隊は、例年通りの時期に渡って来たものの、渡って来た翌日、翌々日といきなり暴風雪に見舞われ、とりあえずは散々な出足でした。一番乗りを果たした彼らの果敢さが報われるのかどうか、それは3月の気まぐれな天気次第。そんな彼らの後を追って、これからゴールデンウィーク頃にかけて次々にアオサギの群れが渡って来ます。今年もまたアオサギシーズンの幕開けです。

ひと休み

この時期に吹雪かれるのは真冬に吹雪かれるより寒く感じますね。アオサギはどうなのでしょうか。

数日前から巣作りをはじめた江別のサギたちですが、今日のコロニーはふたたび空っぽ。卵はまだ産んでないので、天気が悪ければ敢えて巣に留まる必要もありません。荒れた日は風の避けられるねぐらに戻ってひと休みです。

写真は今日のねぐらの様子。ここに写っているのが現在までに渡ってきているメンバーのほぼ全てです。ここの繁殖地は最盛期には三百数十羽が営巣しますから、今現在到着しているのは全体の6分の1か7分の1というところ。今いるのは皆、子育て経験豊富なサギたちなのでしょう。ところで、写真には少なくとも47羽が確認できます。皆さん、何羽まで数えられますか? (注意:くれぐれもあまり真剣に数えて悩まないように。言われなければまず分からない隠し絵みたいなのも何羽かいますから)

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