アオサギを議論するページ

およそ百数十万羽

どの鳥がどこに何羽くらいいるかというのは、分かっているようで意外に分かっていないもの。小さな範囲ならともかく、世界規模となるとほとんど見当もつきません。ですが、そこをなんとか、不確かな情報は不確かなりに繋ぎ合わせて、とても大雑把ではあるけれども一応の個体数は見積もっておこうという努力はなされています。

『Waterbird Population Estimates, Fourth edition(水鳥の個体数推定 第4版)』という本は、そのタイトルが示すとおり水鳥の個体数の推定値を一覧にしたもので、世界中のあらゆる水鳥が網羅されています。水鳥だけで陸の鳥は含まれていません。考えてみれば、野山の鳥の個体数を調査するのは水鳥に比べればはるかに難しいのでしょうね。猛禽などを別にすれば個体数についてはほとんど分かっていないのかもしれません。なお、上の本はWetlands Internationalのサイトで名前とメールアドレスを書けばタダで入手できます。興味のある方は是非ダウンロードしてみてください。

この本、もちろんアオサギも載っています。せっかくなので、そこにあった数値を地図上に載せてみました。背景に用いた分布図は『The Herons』(Kushlan and Hancock, 2005)からの引用です。もともと幅のある推定値を私が思いきって概数で示したものなので、大雑把な数値がさらに大雑把になっています。もしかしたら実数とは総数で50万羽くらいかけ離れているかもしれません。ともかく、一応の目安ということで。

不正確な情報しか得られないところが多い中、場所によってはかなり正確に調べられているところもあります。とくに西ヨーロッパは推定個体数が26万3千羽から28万6千羽と、推定値の誤差範囲は±4%ほどしかありません。あちらはそれだけ熱心に調べているということなんですね。中央・東ヨーロッパになるとやや精度は劣ってきますが、それでも他の地域に比べると桁違いに正確です。たとえば、その東隣の中央・西南アジア。ここでは2万5千から100万羽と、もはや推定値とも呼べないような値になります。これは日本を含む東・東南アジアも似たようなもので、こちらは10万から100万羽の間。あって無いような値です。実際のところはどうなのでしょうね。たとえば北海道ではおよそ1万羽が生息していると見られています。これは国内のアオサギ密度としてはおそらく高いほう。本州以南のアオサギ密度はもっと低いと考えられますから、日本全体ではたぶん2万羽ぐらいではないでしょうか。さらに南のほうはというと、地図をご覧いただければ分かるように、アオサギは中緯度で繁殖し、低緯度はほとんど越冬地としてしか利用していません。低緯度で繁殖地となっているスマトラ島でも、そこの生息数はわずか千羽ないし2千羽。その程度なのです。中国にはちょっと期待できそうもありませんし、あと大きな個体群の可能性がありそうなのは極東のハンカ湖周辺くらいでしょうか。そんなことで、東・東南アジア地域でのアオサギは多くても30万羽ほどではないかと私は勝手に予想しています。あと分からないのはアフリカですね。ここはさらに見当がつきません。推定値は10万から100万となっていますが、ここも30万羽もいれば多いくらいでしょう。

ということで、これらを全部合わせると、地球上に住むアオサギの総数は139万羽。根拠の乏しい推測が相当含まれているのであまり当てにはなりませんが、目安としてはこんなものだろうと思います。まあだいたい当たっているとして、私の住んでいる札幌市の人口が現在192万ですからそれよりもずっと少ない数です。
こんな計算をするたびに、なんだか人間の数がとてつもなく多く思えてきます。

冬ねぐら

アオサギ初飛来のニュースが各地から届く季節になってきました。今年は暖かそうですから、まだ来ていない所もいつもより早く飛来するかもしれませんね。北海道はまだ秒読みというところまではいきませんが、それでももう2週間とはかからないと思います。

冬の間、サギたちがどのような暮らしをしているのかは、繁殖期に比べるとまるで分かっていません。おそらく、研究の数も繁殖期を10とすると冬季間は1も無いのではないでしょうか。どの程度の量の餌を食べているのかという基本的なことさえ十分には分かっていないのです。ただ、冬の間の死亡率が高いところを見ると、やはり夏のようには食べれていないのは確かなのでしょう。

北海道江別市の冬ねぐらでは毎年20羽前後のアオサギが冬を越しています。これだけまとまった数で越冬する場所は国内ではここが北限です。こんな条件の厳しいところでわざわざ越冬しなくてもといつも思うのですが、雪が降っても水面が凍っても冬ねぐらの彼らは意外にも悠々として見えます。ただ、なぜか1月から2月にかけての厳冬期は見かける頻度が少なくなるのですね。さすがにその時期になると、ねぐらで暇つぶししている余裕は無いということでしょうか。

写真は江別のねぐらで先週末に撮ったものです。この時、ねぐらにいたアオサギは2羽。珍しいことにダイサギが1羽来ていました。この時期のダイサギなのできっとオオダイサギでしょう。オオダイサギが北へ帰る頃になれば、入れ替わりに南からアオサギが渡ってくるはずです。それももう間もなくのこと。

さて、そんな時期なもので、毎年恒例の『「アオサギ繁殖前線」をつくろう!』のページを作ってみました。ここしばらくは右のサイドバーのお知らせ欄にも置いておきます。御覧いただければ幸いです。

残り鷺

俳句の世界では、冬になっても渡らず繁殖地に留まるサギを「残り鷺」と言うそうです。鷺そのものは、年中見かける所が多いせいか季語ではないらしいのですが、残ったという条件がつけばこれは別。こちらは冬の季語になります。

そんな残り鷺たちに会ってきました。写真は札幌近郊、工業団地の一角にある冬ねぐらです。拡大してもらえると分かりますが、木のてっぺんに点々と6羽ぐらいとまっています。よく見るともっと下のほうにも何羽かいます。普通、こんなふうに樹冠にサギが並ぶ光景はあまり見かけません。だいたいは木の中ほどにぽつりぽつりと佇んでいて、そのつもりで見ないと気付かないものです。じつはこの写真、サギの群れが飛来した直後に写したものなのです。とりあえず、どこでもいいから適当な場所に下り立ったというわけですね。ただ、木のてっぺんは枝が細くて不安定なのか、樹冠にとまっていたのはほんの数分で、この後間もなく1羽、2羽と下のほうに移動していきました。

ところで、今回この冬ねぐらで見かけたアオサギは合計24羽。多少は餌場に行っているのもいるかもしれませんが、ここで越冬するのは毎年だいたいこのぐらいです。そして、24羽のうち3羽が今年生まれの幼鳥。これからどんどん寒くなって、どっさどっさと雪が降り積もるのに、それを知ってか知らずか(まあ、今年生まれなので知る由もないですが)本当に大丈夫なのでしょうか。なんとなくぶらぶらしているうちに渡りそびれてしまったのか、それとも思うところがあって自分の意思で残ったのか、知りたいところです。

コロニーを2ヶ所追加

今回は北海道のローカルな話題です。
北海道に新たに2ヶ所コロニーが加わりました。と言っても、私が知らなかっただけなのですが…。

ひとつ目は新十津川のコロニーで、場所は留久貯水池のほとり、新十津川の町から徳富川を十数キロ上流へ遡ったところにあります。ここでの営巣の様子は、連絡を下さった方のブログ「雅やんの想い」に紹介されています。新十津川辺りを通ると水田でよくアオサギを見かけていましたが、こんなところにコロニーがあったのですね。ただ、新十津川周辺には砂川や江部乙などそう遠くない場所に別のコロニーがありますから、新十津川の水田にいるのが必ずしも今回のコロニーのサギというわけではないと思います。たぶん、これら3コロニーの餌場はかなり重複しているのでしょう。コロニーと餌場の位置関係も調べてみると面白そうです。私は現地を見ていないので正確な場所は分かりませんが、コロニーはおおよそ次の位置にあるようです。
新十津川コロニーの位置

もうひとつは士別市にあるコロニー。こちらは冬に友人がそれらしい巣を見たということで確かめてきました。最初、言われた場所はしんと静まっており、友人の見間違いだったかなと帰りかけたのですが、どうも仄かにアオサギのフンの匂いがするような気がして留まっていると、そのうち聞きなれた声が…。ちゃんと営巣していました。場所は士別市の市街地を東に少し外れたところ、道路脇の斜面にある林です(写真)。
士別コロニーの位置
林の中なので何巣ぐらいあるのか検討がつきませんが、ヒナの声などから判断してかなりあてずっぽうですが4、50巣というところでしょうか。ここは葉っぱが落ちた後に正確な巣数を数えることができればまたご報告します。

ところで、このコロニーで驚いたのは、これが最近できたものではないということ。近くに住んでいる農家の老夫婦にお話を聞いたところ、ここに移り住んだ50年ほど前にはすでにアオサギはいたということです。当時からここで営巣していたかどうかは分からないということでしたが、その当時、この辺りで他のコロニーは知られていないことから、たとえこの場所でなくとも少なくとも同地域で営巣していたのは確かだと思われます。

50年も前からということになると、このコロニーは天塩川沿いに点在するコロニー群の母体になっていたはず。そうなると、サロベツのコロニーを核として天塩川を遡るように分布が広がったとする従来の見方はできなくなります。どうも道北地方のアオサギの歴史は大幅に再検討する必要がありそうですね。道内のコロニー、とくに地域個体群の核となるような重要なコロニーは全て把握しているつもりでしたが、こんな重要なコロニーを見過ごしていたとは迂闊でした。さすがに北海道は広いです。

ここ数年はコロニーの現地調査や情報収集を精力的に行えていないため、当サイトに載せているコロニーの個別情報の中には現状を反映していない場合も少なからずあるかと思います。そんなわけですので、もし北海道のコロニーの一覧表に載っていないコロニーや最近消滅したコロニーをご存知の方がおられれば御一報いただけると大変有り難いです。どうかよろしくお願いします。

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