アオサギを議論するページ

鳥獣保護法の改正があるようです

じつは鳥獣保護法という名の法律はありません。この法律の正式名称は「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」というもので、その名のとおり鳥獣の保護に関する規定だけでなく狩猟に関する規定も数多く記されています。そもそもこの法律は成り立ちからして狩猟のための法律だったものを、何らかの規制をしないと鳥獣がどんどん減ってしまうというので、後から保護のための規則を加えていったものなのです。なので、鳥獣を保護するための法律といっても他人の土俵で相撲をとっているようなどことなく仮住まいの印象が拭えません。野生動物の保護はこうあるべきという理念が条文から見えてこないのです。興味のある方は環境省のこちらのページに全文が載っていますのでどんなものか見てみてください。少なくとも私には時の状況に応じて対処療法的につぎはぎしていった理念のない法律に見えます。しかし、内容がどうであれ、ほとんどの野生鳥獣にとってはこれが保護の拠り所となる唯一の法律なのです。絶滅の危機に瀕しているいわゆる希少鳥獣については種の保存法だとか何だとかいろいろ他にも法の網がかかっていますが、そうではない大多数の鳥獣については自らを守ってくれる法はこれ以外にありません。

その鳥獣保護法が、近々、一部改正されるようです。改正の内容をごく手短にまとめると、一部の鳥獣(とくにシカ)があまりに増えたことで農林業等への被害が深刻化し、現在の法体系の中でやっていたのでは被害の増加に太刀打ちできない、ついては法の規定を作り直して積極的に個体数を調整できるようにしましょうという趣旨のようです。要するに、駆除を促進するための法改正なのですね。この件については環境省のほうから答申(素案)が出ていて、その答申をまとめるに至った経過(議事録)も公表されていますので気になる方は読んでみてください。正直なところ、私はこの問題に関してはシカやイノシシがどのていど増えてどれほど切迫した状況なのかよく知らないため、その賛否についてあまりあれこれ言うのは止めておきます。ただ、答申や議事録を読んでみると、駆除によって個体数を減らすことへの並々ならぬ意気込みが感じられます。ともかくさまざまな手段、制度を駆使して効果的に数を減らす、その手段、制度を正当化するための法改正という感じです。これはなにも悪い意味で言っているのではなく、事実、そういうことなのだと思います。

もちろん状況を改善しようとして制度を変えるのでしょうけど、何かを変えるとその目的以外のものもいろいろ変わってしまいます。たとえば、今回の答申では個体数が著しく増えた鳥獣についてはその捕獲を専門の業者に任せられるように制度を改正するとあります。これまで一般のハンターに駆除を頼んでいたものを、それだけでは足りないので専門の業者に肩代わりしてもらうというものです。要するに商売で駆除を行うようになるわけですね。これは有り体に言うと命の商品化です。動物や鳥が命をもった存在ではなくモノとしてみなされる、社会の中で動物や鳥に対する見方が無意識のうちに変わっていく、これは恐ろしいことです。法の改正に当たってはこうした意図しない変化まできちんとケアする必要があると思いますが、今回の答申からはそこまでの姿勢は感じられません。

ともかく、このことを含め今回の改正で私が危惧するのは保護の視点が極めて薄弱だということです。積極的な駆除を進めていくと必ず何かしらの弊害は出てきます。そうするならそうするで、どのような弊害があるかを見越して保護の体制についても一層充実を図るべきですが、これまでのところそうしたバランスが考慮される気配はなさそうです。これは実は今回が最初ではありません。ここ十数年の間に1999年の鳥獣保護法の一部改正をはじめ鳥獣関係の法律で重要な改正や新設が何度か行われてきました。そして、そのたびに鳥獣の捕獲を促進する制度が新たに加わり、一方、保護については取り立てて話題もなく、両者の力の均衡がますます不釣り合いなものになってきました。鳥獣保護法という名称がどんどん見かけ倒しになっているわけです。

実のところ、今回の改正はアオサギに直接関わってくる内容ではありません。けれども、一見、関わりがなさそうでいて、実はそれとなく関わってくる内容でもあるのです。これはゆるがせにできない問題です。なぜなら、はっきりと特定された対象であれば法の中でしっかりした(かどうかは分かりませんが、少なくとも意識的な)対応がとられますが、そうでない相手に対しては結果的に影響がある場合でも対応が蔑ろにされがちだからです。今回の場合、法の盲点となるのはまさにアオサギのような立ち位置にる鳥獣です。彼らは割を食う不幸な存在になる恐れがあります。だからこそことさらここで話題にするわけです。これは何もアオサギだけとは限りませんが、ここではそういう鳥獣の代表としてアオサギを取り上げて話を続けたいと思います。

今回の改正で問題にされているのは個体数が著しく増え被害が増えているとされる動物たちです。具体的に現在対象となっている種は、ニホンジカを筆頭として、イノシシ、ツキノワグマ、ニホンザル、ニホンカモシカ、カワウの6種になります。この6種はとくに特定鳥獣という名で呼ばれていて、捕獲の規制が緩和されていたり鳥獣行政の中では別格扱いなっています。そのため、特定鳥獣に対しては都道府県が特定計画という特別な管理計画をつくり対応に当たっています。その計画がうまく機能しているかどうかは別として、ともかくも意識的にきちんとした計画のもとに行動しようとしているわけです。

ところが、個体数が増えたとか被害が増えたというような事象は連続的なもので、あるか無いかのふたつに分けられるものではありません。特定鳥獣のカテゴリーに入れられるほどではないけれども、それなりに個体数も増えそれなりに被害も増えているという鳥獣がいるわけです。アオサギはこの位置にいるとみなされています。ただ、どのていど個体数が増えどのていど被害が増えているのかといったことは、本当に漠然としたことしか分かっていません。実感として確かに被害が多くなった、以前にくらべてアオサギをよく見かけるようになったという地域はもちろんあるでしょうけど、一方ではいなくなる地域もあるわけで、全体としてどうなっているのかについてきちんと説明できる人は一人もいません。これは断言できます。ところが、どういう経緯でそう判断されたのかは分かりませんが、個体数も増えているし被害も増えているとみなされているのが現状なのです。

こうしたアオサギのような立ち位置にいる鳥獣については「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」の中で、特定鳥獣に準じた対応をとるようにということが書かれています。しかし、特定鳥獣にすら十分な対応ができかねる状況なのに、それ以外の鳥獣に対してきちんとした鳥獣行政ができるわけがありません。さらにここで指摘しておきたいのは上記指針にある有害鳥獣捕獲の基本的な考え方についてです。そこでは、アオサギを含め狩猟鳥獣などいくつかの種については、捕獲を許可するにあたって被害の実態を十分に調査する必要はなく、捕獲以外の方法による被害防止方法を検討する必要はないと記されています。実際の文は反語的な言い回しが用いられ次のように書かれています。が、内容としては同じことです。

アオサギ、(他の鳥獣は略)以外の鳥獣については、被害が生じることはまれであり、従来の許可実績もごく僅少であることにかんがみ、これらの鳥獣についての有害鳥獣捕獲を目的とした捕獲許可に当たっては、被害の実態を十分に調査するとともに、捕獲以外の方法による被害防止方法を検討した上で許可する等、特に慎重に取り扱うものとする。

要するに、アオサギは特に慎重に取り扱わなくてもいいということです。これは今回の改正とは関係ないことですが、どこの誰が考え出したのだかまったく頭にきますね。被害の実態もろくに調査せず、はじめから捕獲ありきで駆除するなど、アオサギだろうが何だろうが許されるわけがありません。ところが、駆除の実態を調べてみると本当にそういういい加減なやり方がまかり通っているのです。特定鳥獣については実際にどのようなことが行われているのか私はよく知りませんが、少なくとも法律上はしっかり対応しようという姿勢が見てとれます。また、上で引用した指針のとおり、被害にあまり関係しない鳥獣についても「特に慎重に取り扱う」と一応の配慮がなされています。つまり、これら両者の間にいるアオサギを含むいくつかの種だけが意識的に忘れられた存在になっているわけです。保護の観点がすっとんでしまって全てが野放図になっています。法がこんな状態なので行政の現場もいい加減なものです。そのことについてはまたあらためて別の機会に書きたいと思いますが、まあ本当に呆れるほどのひどい状況です。

ともかくアオサギに関しては、駆除の面では特定鳥獣と同じように考えて駆除するけれども、保護の面はほとんど顧みられていないのが実情なのです。これまでの状況を見てみると特定鳥獣に対する駆除とそれ以外の有害鳥獣の駆除は現場では明確に区別されていません。たとえば、特定鳥獣であるカワウもそうでないアオサギも同じように魚を食害する鳥として十把一絡げに駆除されてしまうのです。本当はそういうことがあってはならないのですが、それが鳥獣駆除の実態です。今回の改正では特定鳥獣の捕獲を強力に推進していくことになります。しかし、その捕獲圧の向かう先が特定鳥獣だけに限られると想像するのはまず不可能です。アオサギに対する不必要な駆除がますます多くなると危惧せざるを得ません。

また最初の話に戻りますが、捕獲を推し進めるのならばその一方でバランスがとれるように保護の体制をしっかり固めることが必要です。ところが今回の答申にはその辺の配慮がまったく無いのです。いかに効率よく駆除実績を上げるか、その一点に集中していて周りの状況がまるで見えていません。鳥獣保護法が何かどんどん右傾化していくようでとても気がかりです。

なお、今回の答申については、現在、環境省のほうでパブリックコメントを受け付けています。私も意見を書くために答申はもとより議事録もひととおり読んでみましたが、あれ式の議論で現在の鳥獣保護法の問題点をあぶり出すなどは到底不可能です。今回の改正が特定鳥獣への対応に絞った内容で、それに焦点を当てての議論だったことを考慮してもやはり不十分。ここで取り上げた論点をはじめ蔑ろにできない問題は数多くあります。答申はまだまったく生煮えの状態です。今のうちに徹底的に文句を言ったほうがいいと思います。パブリックコメントの受付は12月17日まで。ご意見のある方は是非!


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