アオサギを議論するページ

21年目のコロニー

私がよく観察に行く江別コロニーは、アオサギが営巣を始めてから今年で21年目になります。今年も例年と同じく3月半ばにはコロニーに飛来し、ほどなく巣作りが始まりました。早いところでは4月下旬にはヒナが生まれています。5月も順調。今年はいつになく4羽兄弟のヒナが目につき、例年以上に餌条件に恵まれているなと思っていたくらいです。ところが、6月になってにわかに様子がおかしくなりました。それまで比較的大きなヒナが3羽、4羽といた巣が次々と空っぽになっていったのです。そして、現在、コロニーで営巣を続けているのはたった2巣。例年なら巣立ちビナがあちこち飛び回って大賑わいの時期のはずなのに、このふたつの巣に巣立ち間近のヒナが5、6羽いるだけなのです。すでにコロニーを離れているヒナを合わせても、今年ここから巣立つのは最大で16羽ていどです。江別コロニーの規模は百数十巣で、札幌近郊はもとより石狩地方でもかなり大規模な部類に入ります。仮に100つがいとしても、1巣あたり2羽のヒナで200羽。5月の時点では少なく見積もってもそのくらいのヒナはいたはずなのです。それが16羽ですから、今回の状況がいかに異常なのか分かっていただけるかと思います。

じつはこのコロニー、おかしくなったのは今年が初めてではなく、数年前から予兆はありました。コロニーの範囲が端のほうからだんだん縮小していたのです。そして、昨年はとうとう1ヶ所にまとまりきれずに、一部のサギたちが200mほど離れた場所にお引っ越し。真ん中に交通量の多い道路を挟んでコロニーが真っ二つになったわけです。何かおかしなことが起きているというのは私もはっきりと感じていました。そして、今年の惨状です。

何が原因なのかはっきりしたことは分かりません。ただ、何週間もかけてコロニー全体で少しずつ削られるように失敗していくという状況を考えると、少なくとも人の活動による影響ではないと思います。となると考えられるのは捕食者。そして捕食者と言って真っ先に思い浮かぶのはハシブトガラスです。実際、ここのコロニーでは毎年かなり多くのヒナがカラスの犠牲になっています。けれども、今回は被害の規模が桁違いな上に、カラスでは襲えないようなそうとう大きく成長したヒナでもある日突然いなくなっているのです。つまりカラスの仕業ではありません。しかも、いなくなるときは兄弟皆いっせいにいなくなる。捕食者を考えるなら、かなり強力な捕食者を想定する必要がありそうです。オジロやオオワシ、クマタカといった大型の猛禽なら可能かもしれませんが、これらの鳥はこのコロニー周辺にはいませんから除外して良いでしょう。そうなると、犯人はだいたい絞られます。空からではなく地上からの捕食者、アライグマです。

江別コロニーのサギたちは、21年前までは10キロほど離れた野幌コロニーにいたと考えられています。ところが、その年、野幌コロニーはシーズンの真っ最中に突然放棄されてしまいました。そしてそこから移ってきたサギたちでつくられたのが江別コロニーというわけなのです。野幌コロニーが放棄された原因については今も確かなことは分かっていません。ただ、状況証拠からアライグマに襲われたのだろうというのが定説になっています。実際、野幌コロニーからさほど遠くない岩見沢のコロニーでは、数年前、アライグマがアオサギの巣に這い上って行くのを私は目撃しています。なので、野幌もおそらく同じような状況だったのだろうというのは容易に想像できます。江別コロニーは、そんな野幌コロニーから逃げてきたサギたちの避難所だったわけです。小さな河畔林で周囲が住宅地という環境なので、これまでアライグマがアプローチできなかったのでしょう。けれども、彼らがやって来るのは時間の問題でした。残念ながら今回とうとう見つかってしまった、ということなのだと思います。今のところ何の証拠があるわけでもなく、アライグマに濡れ衣を着せているだけかもしれませんが、アオサギとアライグマのこれまでの経緯を考えるとその可能性は高いと思うのです。

何が原因にしろ、江別コロニーの今シーズンは夏を待たずにほぼ終わってしまいました。いま残っている5、6羽のヒナたちも、あと1週間もすればコロニーからいなくなるはずです。そしてもしかすると、このヒナたちは、江別コロニーで代々巣立ってきた何千羽というヒナたちの最後の数羽になるかもしれません。これまで毎年来てくれていた彼らが来春はもう戻ってこないと想像するのはとても寂しいことです。けれども、ここまで壊滅的な被害のあった場所に来年もまた戻ってきてほしいと願うのはあまりに酷というものでしょう。アライグマが北海道じゅうどこにでもいるようになった現在、アライグマが来ない場所を見つけるのは至難の業だと思いますが、アオサギの叡智をもってすればきっと何とかなるはず。来年はこことは違う別のどこかに安全に子育てできる場所を見つけてほしいと願わざるをえません。


どこに避難すべきか

最近は街中にもよく現れるアオサギ。そんなアオサギしか知らないせいか、アオサギが水鳥ということに違和感を感じる人もいるようです。けれども、アオサギは紛れもなく水鳥。基本的に水域に依存して暮らしています。ただ、水鳥のくせに木の上に巣をかけるのが面白いところで、水鳥としては少々異端とはいえ、それが昔ながらの彼らのやり方なのです。ところが、最近の北海道では、とても樹林とは言えない場所でアオサギが営巣するようになっています。たとえ樹林であっても、周辺環境がかなり変わっているのです。この傾向については当サイトでも何度か書いてきました(たとえば、風変わりな営巣地その1その2その3シタン島コロニー)。今回、その話をこちらの論文にまとめましたので、あらためて紹介したいと思います。本文は英語ですが、簡単な内容なので文を読まなくても図や写真でだいたいのことは分かっていただけるのではと思います。

さて、その風変わりな営巣地、どんな風に変わっているのかというと、巣の周りがぐるりと水で囲まれているのです。樹林の下半分が浸水したヤナギ林だったり、水面に浮かべられたブイの上だったり、洋上の小さな島の上だったり、いずれも従来の営巣地からは想像できない環境です。北海道ではこうしたコロニーが1990年代から見られるようになりました。右の図はそんな変わった営巣地をプロットしたものです。丸で示した箇所が2016年までに確認されたコロニーで153ヶ所あります。このうち白丸が従来型のコロニーで、黒丸で示した9箇所が水で囲まれたコロニーです。

問題はなぜこのような場所で営巣しはじめたのかということ。別に樹林が少なくなったわけではありません。樹林はもとのままなのですが、どうやらそこに住んでいては不都合な状況が生じたようなのです。図に3ヶ所ある灰色の丸は、アオサギにとって大きな事件のあったコロニーを示しています。じつはこのうちの1ヶ所はヒグマに、別の1ヶ所はアライグマに襲われたことが確認されています。両コロニーとも、ヒグマやアライグマが木に登りヒナを捕食するのが実際に目撃されているのです。もう1ヶ所は直接目撃されてはないものの、状況証拠からみてアライグマに襲われた可能性が高いと考えられています。

アオサギがいくら高い木の上に巣をつくっていても、ヒグマやアライグマのように木登りの得意な捕食者がいれば、彼らと地続きの場所に住んでいる限り安全ではありません。そんな地上性の捕食者から逃れようとすれば、彼らと自分たちの間に何らかの物理的障壁をつくるのがひとつの手。水域はその障壁としてかなり有望です。直接の因果関係が確認されているわけではないのですが、水域をバリアにした黒丸のコロニーは、地上性捕食者から逃れるためにつくられた可能性が高いと考えています。ここ数十年でヒグマやアライグマが増えたと同時にアオサギも増えましたから、それだけお互いに遭遇する機会も増えたのでしょう。結果として、アオサギはそれまでのように樹上で安穏と暮らすことはもはやできなくなったと。小鳥類なら周りに悟られないようにひっそり営巣することも可能でしょうけど、アオサギにそれは無理な話。そうなると、堂々と営巣しても問題ない場所に引っ越すしかありません。

そんなわけなので、水域に囲まれた場所での営巣は今後も増えるのではないかと思っています。ただ、そのように都合の良い場所は決して多くはないのですね。アライグマがもともと住んでいた北米だと、水辺の地理的な多様性が北海道より格段に大きいですから、サギ類が逃れる場所はまだ豊富にあるのです。一方、小さな国土で地理的多様性が小さい上に、人が多く住む日本では、アオサギの避難所はほとんど残されていません。

けれども、アオサギが素晴らしいのは、そんな窮地に追いやられてもいつもなんとかして突破口を見つけるところ。水辺に適当な場所がなければ、彼らは街中に避難するのです。街には公園や社寺等にアオサギが営巣できるあるていどまとまった樹林が残されています。そこでは水域の代わりに人家や道路が捕食者に対するバリアになるわけです。ヒグマもアライグマもさすがに街中はうろうろできませんから。ただ、街中の樹林はアオサギにとって必ずしも望ましい営巣環境ではありません。ストレスが多い環境でもヒナが食べられるよりはましと、しぶしぶ我慢して避難してきているアオサギも多いはず。私たちはアオサギは適応力があるからどこにでも住めるとついつい呑気に考えがちですが、じつはアオサギにはアオサギなりの止んごと無い事情があるということを頭の片隅に入れておきたいものです。

なお、紹介した論文は”Journal of Heron Biology and Conservation“という雑誌に載っています。名前のとおりサギ類のことだけを扱うとても間口の狭い専門誌です。ただ、それだけにサギ類に興味のある人にはこれ以上ない喜びを与えてくれるものと思います。この雑誌はIUCNの中にあるサギ類のワーキンググループが刊行しているもので、同グループは”Heron Conservation“というウェブサイトも運営しています。このサイトは見かけは地味ですけど、アオサギをはじめ世界中のサギ類に関するありとあらゆる膨大な情報を収納しています。サギ類に興味のある方、ぜひ参考にしてみてください。


コロニーに思うこと

アオサギのコロニーというのはじつに千差万別で、立地環境も違えば、当然、規模も違い、さらにそれぞれ異なる歴史をもっています。それは人間の町や村と同じようなものです。一時期繁栄していたかと思えば、いつの間にかゴーストタウンになっていたり、ひどいときは町そのものが忽然と消えていたりします。コロニーが放棄される原因はワシやクマなどの捕食者であることもありますが、なんと言っても多いのは人による影響です。

この週末、道北地方のコロニーを7ヶ所ほど巡ってきました。道北は北海道の中でも人口の少ない地域ですが、人が少なくてもアオサギが人の活動に翻弄されるという図式は変わりません。右の写真はオホーツク海沿岸、猿払村にあるコロニー(正面の林)。右側の建物がおととし閉校になった猿払小学校で、小学生と入れ替わりで林にやってきたのがアオサギでした。付近に人の出入りが絶え、営巣場所として都合が良かったのでしょうね。ところが、子育て真っ最中の昨年5月中旬、おもわぬ騒ぎが起きてしまいました。使われなくなった手前のグラウンドがなんと自衛隊の演習場になってしまったのです。小学生が走りまわるぐらいは何てことありませんが、自衛隊の演習をやられたのではサギたちはたまったものではありません。当然、コロニーはもぬけの殻です。どんなに静かな環境のように見えても安心して子育てできる場所というのはなかなか無いのですね。

ところで、今回確認した7ヶ所のうち、いつの間にか林が伐採されていたところが3ヶ所ありました。そのうちの1ヶ所、中川町の町外れで営巣していたサギたちは、伐採後、街中の林に引っ越しています。人の多く住むところに行けばたいてい苦情が出ます。ここも案の定、鳴き声がうるさいとかフンを落とされるとか散々迷惑がられていました。

ただ、アオサギをよく思わない人がいる一方、逆にアオサギの肩をもつ人たちもいます。写真は、中川町の町外れに昔あったコロニー。現在、ここのサギたちは中川の街中に移り住んでいます。当時、この林はある個人の所有でした。その後、その方が土地を離れ管理できなくなり手放すことになったのです。その話があったとき、写真の林の裏手にあるお寺の住職さんが、林にはアオサギが住んでいるのだから人に売るのだったらワシが買うと言っていたそうです。残念ながら林は別の人の手に渡り伐採されてしまったのですが、住職さんのような方がいるのは本当に心強いですし、その思いは時と場所を変えてきっと受け継がれていくと思います。

アオサギの味方はこの住職さんだけではありません。同じく道北の名寄市で、以前、林を売る話が出たとき、やはりそこにアオサギがいるからというので、同市の弁護士さんが林を買い取りコロニーが救われたことがあります。このコロニーはそれから何年か後にオジロワシの執拗な襲撃に遭い放棄されるのですが、それまでの間、道北地方の一大拠点として何千羽ものヒナが巣立っていきました。

それで思い出すことがあります。20年ほど前、札幌市平岡のイオン敷地内の森にアオサギが住みはじめた頃、この先、イオンとして森をどう維持、あるいは開発していくかということが問題になりました。その時、植物の権威、大御所だという大学の教授だか名誉教授だかが呼ばれて森のことを調べていったのですが、その人云く、木を切ってもアオサギは別の森に飛んでいくだけだから気にすることはない、と。それを聞いたときの驚きと怒りは今も忘れません。サギたちが安心して住めるような森は本当にわずかしか残ってないのです。こんな勘違いな迷惑専門家はとっとと退場していただきたいものです。そして、中川の住職さんや名寄の弁護士さんのような気骨ある動物の理解者がもっと存在感を発揮できる世の中になってほしいなと思います。


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