アオサギを議論するページ

どこに避難すべきか

最近は街中にもよく現れるアオサギ。そんなアオサギしか知らないせいか、アオサギが水鳥ということに違和感を感じる人もいるようです。けれども、アオサギは紛れもなく水鳥。基本的に水域に依存して暮らしています。ただ、水鳥のくせに木の上に巣をかけるのが面白いところで、水鳥としては少々異端とはいえ、それが昔ながらの彼らのやり方なのです。ところが、最近の北海道では、とても樹林とは言えない場所でアオサギが営巣するようになっています。たとえ樹林であっても、周辺環境がかなり変わっているのです。この傾向については当サイトでも何度か書いてきました(たとえば、風変わりな営巣地その1その2その3シタン島コロニー)。今回、その話をこちらの論文にまとめましたので、あらためて紹介したいと思います。本文は英語ですが、簡単な内容なので文を読まなくても図や写真でだいたいのことは分かっていただけるのではと思います。

さて、その風変わりな営巣地、どんな風に変わっているのかというと、巣の周りがぐるりと水で囲まれているのです。樹林の下半分が浸水したヤナギ林だったり、水面に浮かべられたブイの上だったり、洋上の小さな島の上だったり、いずれも従来の営巣地からは想像できない環境です。北海道ではこうしたコロニーが1990年代から見られるようになりました。右の図はそんな変わった営巣地をプロットしたものです。丸で示した箇所が2016年までに確認されたコロニーで153ヶ所あります。このうち白丸が従来型のコロニーで、黒丸で示した9箇所が水で囲まれたコロニーです。

問題はなぜこのような場所で営巣しはじめたのかということ。別に樹林が少なくなったわけではありません。樹林はもとのままなのですが、どうやらそこに住んでいては不都合な状況が生じたようなのです。図に3ヶ所ある灰色の丸は、アオサギにとって大きな事件のあったコロニーを示しています。じつはこのうちの1ヶ所はヒグマに、別の1ヶ所はアライグマに襲われたことが確認されています。両コロニーとも、ヒグマやアライグマが木に登りヒナを捕食するのが実際に目撃されているのです。もう1ヶ所は直接目撃されてはないものの、状況証拠からみてアライグマに襲われた可能性が高いと考えられています。

アオサギがいくら高い木の上に巣をつくっていても、ヒグマやアライグマのように木登りの得意な捕食者がいれば、彼らと地続きの場所に住んでいる限り安全ではありません。そんな地上性の捕食者から逃れようとすれば、彼らと自分たちの間に何らかの物理的障壁をつくるのがひとつの手。水域はその障壁としてかなり有望です。直接の因果関係が確認されているわけではないのですが、水域をバリアにした黒丸のコロニーは、地上性捕食者から逃れるためにつくられた可能性が高いと考えています。ここ数十年でヒグマやアライグマが増えたと同時にアオサギも増えましたから、それだけお互いに遭遇する機会も増えたのでしょう。結果として、アオサギはそれまでのように樹上で安穏と暮らすことはもはやできなくなったと。小鳥類なら周りに悟られないようにひっそり営巣することも可能でしょうけど、アオサギにそれは無理な話。そうなると、堂々と営巣しても問題ない場所に引っ越すしかありません。

そんなわけなので、水域に囲まれた場所での営巣は今後も増えるのではないかと思っています。ただ、そのように都合の良い場所は決して多くはないのですね。アライグマがもともと住んでいた北米だと、水辺の地理的な多様性が北海道より格段に大きいですから、サギ類が逃れる場所はまだ豊富にあるのです。一方、小さな国土で地理的多様性が小さい上に、人が多く住む日本では、アオサギの避難所はほとんど残されていません。

けれども、アオサギが素晴らしいのは、そんな窮地に追いやられてもいつもなんとかして突破口を見つけるところ。水辺に適当な場所がなければ、彼らは街中に避難するのです。街には公園や社寺等にアオサギが営巣できるあるていどまとまった樹林が残されています。そこでは水域の代わりに人家や道路が捕食者に対するバリアになるわけです。ヒグマもアライグマもさすがに街中はうろうろできませんから。ただ、街中の樹林はアオサギにとって必ずしも望ましい営巣環境ではありません。ストレスが多い環境でもヒナが食べられるよりはましと、しぶしぶ我慢して避難してきているアオサギも多いはず。私たちはアオサギは適応力があるからどこにでも住めるとついつい呑気に考えがちですが、じつはアオサギにはアオサギなりの止んごと無い事情があるということを頭の片隅に入れておきたいものです。

なお、紹介した論文は”Journal of Heron Biology and Conservation“という雑誌に載っています。名前のとおりサギ類のことだけを扱うとても間口の狭い専門誌です。ただ、それだけにサギ類に興味のある人にはこれ以上ない喜びを与えてくれるものと思います。この雑誌はIUCNの中にあるサギ類のワーキンググループが刊行しているもので、同グループは”Heron Conservation“というウェブサイトも運営しています。このサイトは見かけは地味ですけど、アオサギをはじめ世界中のサギ類に関するありとあらゆる膨大な情報を収納しています。サギ類に興味のある方、ぜひ参考にしてみてください。


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