アオサギを議論するページ

鶴岡市アオサギ問題、その後

左側のサイドバーの一番下にアオサギ関連記事へのリンクを作りました。これまでは記事に言及するたびに各記事の掲載されたサイトにリンクを張っていましたが、ネット上にある日本の新聞記事は短期間で削除され、あとで資料として参照できなくなるので、今後は当サイト内に再現した記事にリンクするようにします。とりあえず、比較的最近の記事をいくつか載せました。

さて、今回載せた記事ですが、ご覧になって分かるとおり大半が鶴岡市で起きている問題を扱ったものです。このうち昨年のものについては以前ここでも取り上げたのでご存知の方も多いかもしれません。そのとき私が書いたものは「保護・保全・共生」の2009/12/12のところに置いてあるので、よろしければご覧になってください。

今回はその続きです。前回までの状況を見ると、この春に再び問題が起きることは目に見えていましたが、やっぱりと言うか、事態は予想通りの筋書きで進んでいるようです。先の週末にかけて、以下3誌に記事が載りました。興味のある方は読んでみてください。内容はどれもだいたい同じです。

朝日新聞(2010年5月12日)「鶴岡公園 今度はサギ」
朝日新聞(2010年5月15日)「サギの営巣対策始まる」
荘内日報(2010年5月15日)「「目玉風船」でサギを撃退 鶴岡公園への営巣防止図る」
山形新聞(2010年5月16日)「鶴岡のサギ対策、イタチごっこ 追い出しても別の場所で営巣心配」

問題はいくつかあります。まず取り上げなければならないのは、アオサギがすでに営巣しているにもかかわらず追い出し行為を行っていること。これは鳥獣保護法の第八条にある「鳥獣及び鳥類の卵は、捕獲等又は採取等(採取又は損傷をいう。以下同じ。)をしてはならない。」という規定に抵触する恐れがあります。これは蔑ろにできないことなので、今回、追い出しを主導的立場で行っている鶴岡市環境課に直接電話で問い合わせてみました。

市の言い分は、現在追い出しているのはまだ営巣を始めていないゴイサギのほうで、アオサギの巣には触れていないから法は犯していないということです。詭弁にもなりません。アオサギはすでに営巣しているわけですし、そのコロニーでロケット花火を打ち上げたりすればアオサギの営巣に悪影響があるのは想像力を働かせるまでもなく当然のことです。仮に営巣を放棄しなくても、親鳥が逃げれば卵やヒナがカラス等に襲われる可能性は高く、直接ではないにしても人間の行為が結果として「鳥獣及び鳥類の卵を損傷」している状況に変わりはありません。

アオサギに関して言えば、やむを得ない事情がある場合は都道府県知事の許可を得た上で駆除を行うことは可能です。しかし、今回の場合は営巣前に追い出すという建て前からだと思いますが、駆除申請は行っていないようでした。ともかく、今回の件は全てなし崩し的に事態が進行しているように見え、サギ問題に対する取り組みの悪しき前例となりそうな気配があります。

市に対してもうひとつ確認しておきたかったのは、この問題に対する市の今後の対応についてです。この件について尋ねたところ、市としてはサギ類に対する住民の苦情をもとに追い出しを行っているだけであり、現在はそのための効果的な方法を現場で実証試験しているに過ぎないということでした。これではその場凌ぎの対処療法にしかなりません。さらに悲しいことには、市としては問題解決に向けたビジョンは無く、またそれを考えるつもりもない、ついでに言えば、現在行っている実証試験以上のことをするお金も無いということでした。ビジョンの無い行政が行政と言えるのでしょうか? サギが来ればただただ追い出す、これでは人にとってもサギにとっても不幸な結末しか見えてきません。

鶴岡市の問題は去年の暮れから気にして見ていたわけですが、住民も行政も報道も鶴岡市全体が一種の集団ヒステリー状態になっているような気がしてなりません。行政は、サギが林に居座りそうになったらすぐに連絡してほしい、連絡があればすぐに追い出しに向かうといった具合で、何だか町がエイリアンの侵略を受けているような雰囲気です。とりあえず、もう少し落ち着きませんか?

生き物というのはそこに食べるものがあれば万難を排して集まってくるものです。それは仕事があるところに人が集まってくるのと同じ理屈です。生態系はそれでバランスがとれているのですから、サギ類は迷惑だから全面的に締め出しますなどと宣言してみたところで上手くいくはずがないのです。どこかで折り合いをつけなければなりません。そして、折り合いをつけるためにはそれ相応の負担が必要なのです。

さて、先の見えない鶴岡のサギ問題ですが、目先を少し別の方に向けてみましょうか。ここに、同じように問題があっても全く違った対応をされているケースがあります。紹介するのは京都の梅宮大社の事例で、日本野鳥の会滋賀支部の会報「におのうみ」14号(2008年9月1日発行)に載っていたものです。ここには会員の方がサギのコロニーがある梅宮大社の宮司さんにお話しを伺ったときの内容がまとめられています。以下、その中でとりわけ重要だと思う部分を抜粋してみます。

このコロニーの歴史は長く、昭和50年代までさかのぼるそうです。40年代からの宅地開発が60年頃まで続き、周辺の樹木が切られた結果、ここに集まってきたとのことでした。田んぼや森や林がなくなり、ここへサギ達は追い込まれてきたそうです。宮司様は「4、5年前に一度増えて心配したが、自然に減ったりすることもあるので心配無用、追い払いも保護も特別していない。うちでは自然に任せています」。
(中略)
8~10 月の3ヶ月はいないので静かですが、3~6 月はとてもうるさく梅雨の頃が一番臭いそうですが、追い払いなどの爆竹音のほうがうるさいと思っているので、自然のままにうまく調和することを考えていきたいと。また、子育て、安産は縁起がいいから雛をつくってくれるとうれしいと笑顔でお話されていました。

このコロニーがどのぐらいの規模なのか分からないので鶴岡や他の問題のある地域とは一概に比べられませんが、「とてもうるさく」と書かれているので人によっては強い被害意識をもってしまう環境だと思います。そんな状況でもこの宮司さんはとてもポジティブです。「追い払いも保護もしていない」というのは、ある意味、野生生物と人とのもっとも望ましい関わり方なのかもしれません。

そして、一番印象的だったのは次の一文です。

周りに住んでいらっしゃる近隣住民の方々からの苦情などがでることも、もちろんあるそうですが、 皆さんが追い出したので、うちで面倒をみているんだとお返事されているそうです。

この宮司さんの言葉には鶴岡の件も含めサギ問題の本質がさりげなく語られています。自分たちに災難が降りかかってきたのは、そもそも人が彼らの生息地を奪い彼らを追い出したことの結果なのだと。自業自得とはまったくこのことですね。先にも書いたように、人はこの負担をどこかで受け入れなければなりません。それが嫌だと突っぱねることは、自然界、生態系に別の歪みをつくることに他なりません。そして、それがまた別の災いとなって降りかかってくるのです。

最後にもうひとつ。開発行為によりコロニーが消滅させられるのと異なり、住民の苦情によりコロニーが排除されるケースでは、それに異議を挟む人はほとんど出てきません。人が迷惑しているという事実が取り沙汰された時点で大方の人は黙ってしまうからです。ところが、梅宮大社の宮司さんは違いました。野生生物にとって本当に必要なのは、この方のように人の利害も野生生物の利害も超越して毅然とした態度でいられる人なのかもしれません。

第2回「アオサギ観察会」のご案内

今週は愛鳥週間だそうです。それに合わせたわけではありませんが、今週金曜に札幌と江別で第2回目のアオサギ観察会を行います。第1回目に引き続き平日開催ではありますが、ご都合のつく方は是非参加してみてください。下に北海道アオサギ研究会のHPにある案内を転載します。

「アオサギ観察会」のご案内

北海道アオサギ研究会では、5月14日(金)、平岡と江別の両コロニーで今シーズン第2回目の「アオサギ観察会」を開催することになりました。木々の葉がまだ茂らないこの時期はコロニーの観察にはうってつけです。生まれたばかりの小さなヒナたちに春を感じてみませんか。

時間と場所は次のとおりです。
9:30~10:30      平岡コロニー(札幌市清田区平岡)   集合場所:平岡高校玄関前
11:15~12:00    江別コロニー(江別市工栄町)         集合場所:江別市リサイクルセンター倉庫前

参加はどちらか片方のみでも構いません。
平岡のほうは参加人数にとくに制限を設けませんので、参加される方は平岡高校玄関前に直接お越しください。江別のほうは観察場所とコロニーの距離が近いことから参加者多数の場合は人数を制限することがあります。江別のみに参加ご希望の方は松長までメールか電話(090-6445-2220)でご連絡ください。

なお、今回の観察会は「平岡どんぐりの森」との共催で行います。「平岡どんぐりの森」は、2000年以降、毎年、平岡コロニーで観察会を行うなど、その活動は平岡のアオサギ営巣地の保全に大きく貢献しています。

[注意]平岡コロニーは約400メートル離れた平岡高校屋上からの観察となりますので、間近にアオサギが見られるわけではありません。平岡へ参加される方はこの点をあらかじめご了承ください。

写真は土曜日の江別コロニーの様子です。現在、160つがいほどが営巣しており、あちこちの巣でヒナが生まれはじめています。写真中央左の中腰で屈んでいる親鳥の下には小さなヒナがもう4羽もいます。こうなると巣にペッタンとは座れないようで、抱卵中の親鳥とは容易に見分けがつくようになります。

じつは第1回目の観察会は吹雪模様の悪天候で中止となりました。ですから今回が実質第1回目となります。ここしばらくはっきりしない天気が続いていますが、今週末はどうやら大丈夫そうですね。観察会はこのあと6月頃に第3回目を予定しています。その頃にはヒナもかなり大きくなっており、今回とはまた違ったコロニーの様相が見られるかと思います。平岡での観察が高校を利用するため平日開催にならざるを得ないのが残念ですが、平日なので参加者が少なくのんびり観察できると思います。お時間のある方は是非ご参加ください。

若すぎるペア

ヒナが生まれはじめ、ヒナの声も小さく聞こえるようになった札幌周辺のアオサギコロニーですが、ヒナが生まれる一方でこれから巣づくりというペアもいます。北海道あたりでは、つがいにより営巣開始時期にひと月以上のズレがあります。そして、遅い時期に巣づくりを始めたペアには成鳥の羽になり切っていないアオサギがかなり多く混じっています。

写真はそんなつがいのひとつ。一応、ちゃんとしたつがいなのですが、まだ巣がありませんし、たまたま2羽が離れているのでペアのように見えないかもしれません。そして、何よりもペアらしく見えないのは左のアオサギが成鳥ではないという点。明らかに1年目の幼鳥のようです。

通常、アオサギは生まれた翌々年から繁殖に加わり、1年目で営巣することはまずありません。なので、これはかなり稀なケースです。ただ、生殖能力は1年目から具わっているので、繁殖が不可能というわけではありません。不可能ではないのですが、やはりヒナを育てる能力ということになるとまだまだ不完全なようです。実際、1年目でうまくヒナを巣立たせた例を私はまだ見たことがありませんし、おそらく成功したという報告も皆無なのではないかと思います。たぶん、経験のない幼鳥では抱卵や給餌そのものはある程度やれても、自分の餌を獲るのが精いっぱいで、ヒナの分まで面倒をみる余裕は無いのでしょう。

さて、このつがい、どこまでがんばれるでしょうか?

遅れたものの例年並

4月ももう終わりだというのに、激しく雪の舞った昨日の札幌。ヒナが生まれはじめているこの時期に、雪や雨、さらには強風と、全く思いやりのない天気が続きますね。

ところで、北海道のアオサギの個体数が今年は少ないということを先日書きましたが、どうも飛来時期が遅かっただけのようです。春先から遅め遅めに季節が進んでいますから、サギたちもそれに合わせてゆっくりめに行動を起こしているのでしょう。少なくとも私がよく見ている江別コロニーは例年並の営巣数にほぼ回復しました。数日前に見た時でおよそ160巣。この先は増えても10巣がいいところだと思います。

すでにヒナが生まれているところもあれば、まだ1本目の巣材を置くのに四苦八苦しているところもありますが、ともかくこれで今年のメンバーはだいたい揃いました。全体的にやや遅れ気味のシーズン序盤でしたが、これからは木々の芽吹きとともにいつもどおりの賑やかさ(騒々しさ?)となりそうです。

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